INTERVIEW
大阪府済生会吹田病院
400~599床
社会福祉法人
設備改修
2026/02/03 06:28

80年という長きにわたり、地域周産期医療の要として生命の誕生を支えてきた【大阪府済生会吹田病院様】。少子化という逆風のなか、病院の“原点”である周産期病棟の改修という一大プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングに挑戦されました。
目標を大きく超えるご支援を集め、単なる資金調達に留まらず、職員の意識変化や地域との新たな絆を生み出したその成功の裏側には、どのような想いと工夫が隠されていたのでしょうか。
今回は、周産期センター長である小川先生、事務長の髙元様、そしてプロジェクト事務局の岡利様にお話を伺いました。
前編では「テーマに込めた想い」と「歴史と信頼が繋げた支援」についてお届けしました。後編では、ご支援をいただくための工夫や、プロジェクトによる院内変化、今後の展望についてお伺いいたします。
大阪府済生会吹田病院
大阪府・病床数440床・職員数約1076名(2025年12月時点)
クラウドファンディングプロジェクト
資金の使い道:周産期病棟改修費
動機:資金調達を通じて産科病棟の改修を行い、妊産婦が安全、安心、快適に出産できる環境を整備すると同時に、病院の歴史と地域貢献への取り組み、地域と共に未来へ継承する意識を強化していくこと
成果:目標金額を大きく超えるご支援をいただき、病棟の改修ができただけでなく、職員の意識変化、地域との絆、新しい取り組みが生まれた
目次
ーー今回、病院のエントランスに設けたクラファンブース窓口からの支援が非常に多かったと聞きました。病院という場所柄、オンラインだけでなく対面での窓口を設けたことが、大きな成果に繋がったのですね。
髙元さま:この窓口支援の成功は、まさに岡利さんの広報アイデアと、小川先生の鋭い「現場の視点」が見事に融合した結果だと感じています。事務方だけで進めると、どうしても事務的な手続きの案内に終始してしまいがちです。しかしそこに、小川先生が日々の診療で培ってきた「患者さんの心に寄り添う視点」が加わりました。「患者さんはどのような想いで来院されるのか」「どのタイミングなら、このプロジェクトを無理なく知っていただけるのか」。お二人が職種の垣根を越えて知恵を絞り、工夫を凝らしてくれたからこそ、あのような温かい場が生まれたのだと思います。
実は、岡利さんがこのブース設置において最も重視していたのは、単なる寄付の受付ではなく「支援者さんとの双方向のコミュニケーションを創出すること」でした。窓口をきっかけに、病院の想いをお伝えし、同時に皆さんからの声を受け止める。そうした対話の積み重ねが、結果として多くのご支援に繋がったのだと確信しています。
ーー「ガチャ」のアイデアはどなたから出たのですか。
岡利様:もともとのきっかけは、小川先生からいただいた「子どもたちがお小遣いから出せる100円のような少額でも、みんなが参加できる仕組みを作りたい」という提案でした。ただ、事務局で検討したところ、そのような形での金銭の直接的な受領には事務・運用上の制約があることが分かりました。そこで、お金をいただくのではなく、子どもたちに「応援メッセージカード」を書いてもらい、それをボードに掲示することでプロジェクトに参加していただく形にしたんです。
そのメッセージへのお礼として、専用のコインをお渡ししてガチャガチャを回してもらう――。このアイデアは、総務課内での議論から生まれました。「お金」ではなく、子どもたちの「応援したいという気持ち」を形にする体験を届けたい。その想いが一致し、最終的にガチャの採用に至りました。
髙元さま:クラウドファンディングはどうしても「大きな金額のご寄付」に注目が集まりがちですが、当院としては金額の多寡や年齢を問わず、患者さんや地域の方々全員を巻き込んだプロジェクトにしたいと考えていました。子どもたちが一生懸命に書いてくれたメッセージがボードを埋め尽くしていく様子は、私たち職員にとっても大きな励みになりました。「地域の皆さんと共に歩む病院」という私たちの想いを体現する、素晴らしい取り組みになったと感じています。

応援メッセージを書いてくれたお友達には、ガチャガチャのプレゼント
ーー小さなお子さんがメッセージを書いてくれるのは心温まりますね。
髙元さま:ええ。参加してくれた子どもたちが、一生懸命に自分の言葉でメッセージを綴ってくれる姿を見るのは、私にとっても非常に嬉しい瞬間でした。
小川先生:私も外来の診察室などで、「あそこのブースでメッセージを書いてくれたら、ガチャガチャができるよ」と直接お子さんたちに声をかけたりしていました。医療の場に、そうした「楽しみ」や「笑顔」があるのは素晴らしいことだと感じています。
岡利様:お子さんはもちろんですが、当院で出産されたお母さんや、これから生まれてくる我が子への想いをカードに託す妊婦さんも多くいらっしゃいました。さらに、他科の先生方や多くの職員までもがメッセージを寄せてくれたことも、大きな喜びでした。実は、ガチャガチャのカプセルの中には、周産期病棟の看護師たちによる「手書きのお礼メッセージ」を同封していました。これにより、単なる「景品の受け渡し」に留まらない、双方向の心の通い合いが生まれたと感じています。
ここでも現看護部長が強力に後押ししてくださり、周産期病棟の看護師さんたちが多忙な業務の合間を縫って快く協力してくれました。ガチャガチャという親しみやすい仕掛けを通じて、多くの方々に病院の想いを直接届けることができ、非常に意義のある施策となりました。


ーー支援の状況がひと目でわかる「チャレンジボード」も非常にユニークでしたが、あのアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
岡利様:以前にクラウドファンディングを実施されていた済生会千里病院さんへ視察した際、支援への想いを「だるま」を使って可視化されているのを見て、「当院でも直感的に伝わる何かが欲しい」と考えたのがきっかけです。
ヒントにしたのは、映画『メジャーリーグ』のワンシーンです。弱小チームが勝利を重ねるごとにオーナーの写真パネルを剥がしていくという有名な場面があるのですが、その逆パターンを考案しました。ご支援が集まるごとにパネルを一枚ずつ貼り足していき、「妊婦さんとサポートする助産師さん」から最終的に「新しい親子の絵」が完成するというストーリーです。
ーー貼り足していくことで、希望が形になっていくわけですね。
岡利さん:はい。実はこのボードをはじめ、今回の広報モデルは撮影当時、実際に妊娠中だった当院の助産師さんにお願いしました。ただ、制作の過程ではかなりハラハラする場面もありました。というのも、メインビジュアルの完成(赤ちゃんの写真撮影)を待つなかで、彼女の出産が予定日を過ぎてもまだという状況だったんです。広報資材の入稿期限が刻一刻と迫り、「もしこのまま出産が遅れたら、チラシの入稿に間に合わないだけでなく、ボードの肝である『新しい親子の絵』も準備できなくなるのでは……」と、事務局としては気が気ではありませんでした(笑)。
結果として、期限当日に無事出産を迎え、すべての資材を完遂することができ本当にホッとしています。ボード自体は総務課の協力のもと、すべて手作りで制作しました。大判印刷したメインビジュアルを剥離タイプのシールシートを、A4 サイズに一枚ずつ丁寧にカットしたものです。
目標額の5%を達成するたびにパネルを貼り足していく際には、職種の垣根を越えてさまざまな職員が「おめでとう!」「ありがとう」と声を掛け合いながら、快くパネルを貼り付けてくれました。手作りだからこそ、関わった全員の温かな想いがこもった、非常に美しいボードに仕上がったと感じています。
ーークラウドファンディングを通じ、寄付金を集めるだけではなく、より多くの患者さん・お子さんに参加してもらい楽しんでいただける、本当に素敵な施策ですね。

目標額の5%でパネルを一枚ずつ追加し、100%で別の絵に変わる【チャレンジボード】
ーーここまで、患者様や地域の皆様といった病院の外部の方の巻き込みについて色々と伺いましたが、院内の職員さんの巻き込みはどのように行われたのですか?
岡利様:職員食堂の全テーブルに、支援者の皆さんから寄せられた応援コメントを「日めくりカレンダー」のような形式で設置しました。職員たちが食事をしている何気ない時間に、自分たちの医療活動が外からどう見られ、どれほど期待されているのか。日々の忙しさで見落としがちな「感謝の声」を、直接肌で感じてほしいと考えたからです。
小川先生:ただ、当初の院内の空気感としては、決して最初から一体感があったわけではありませんでした。今回のテーマはあくまで「周産期(産婦人科・小児科)」という特定の診療科に絞ったものだったため、他の部署の職員からは「自分たちの部署とは直接関係ない話かな」という、どこか遠巻きに見ているような雰囲気も一部にはありましたね。
ーー院内で関心を持ってもらうために工夫されたことはありますか?
岡利さま:職員食堂に大きな掲示板を設置し、毎日の支援金額や達成率をリアルタイムで更新し続けました。また、先ほどの「チャレンジボード」への参加や、プロジェクトの開始・終了に向けたカウントダウンなど、多くのイベントを企画し、職員が何らかの形で関われる機会を意識的に創りました。中でも大きな反響があったのは、エントランスに設けた特設ブースです。理想を言えば全職員に立ってほしかったのですが、業務の都合上そうもいきません。そこで、まずは管理部の職員が必ず窓口に立ち、ご寄付の相談や受付を直接行う体制を整えました。
ーー常に誰かがブースにいる状態を作られたのですね。
岡利さま:はい。月曜から金曜の朝9時から午後3時まで、交代で常時2人の職員が対応にあたりました。90日間で延べ10部署417人もの職員がこのブース運営を支えてくれたことになります。正直なところ、当初は「本業が忙しくてそれどころではない」と消極的な声もありました。
しかし、実際にブースに立ち、患者さんから直接「頑張ってください」と励まされたり、感謝の言葉をいただいたりする中で、普段患者さんと接点のない部署の職員たちの心にも、徐々に変化が生まれていきました。対話を通じて自分たちの仕事の価値を再認識し、協力の輪が自然と広がっていったのです。
小川先生:支援の伸び方にも波がありました。最初は勢いがあったものの、その後しばらくは横ばいが続く苦しい時期もありました。しかし、支援額が目標の半分を超えたあたりからでしょうか。院内の空気が一気に変わったのを肌で感じました。
数字が目に見えて積み上がるにつれ、最初は遠巻きに見ていた他部署の職員たちも「いよいよ達成するぞ!」と、自分たちのことのように応援してくれるようになりましたね。

本館1階エントランスに設置したクラウドファンディング特設ブースの様子
ーーご支援を依頼した際に、ネガティブな反応はありましたか。
髙元様:意外なほど、ネガティブな反応はほとんどありませんでした。日頃のご挨拶のついでに「実は今、このような取り組みをしているんです」とお話しする程度に留め、無理なプッシュはしないよう心がけていたことも良かったのかもしれません。
小川先生:やはりお金に関わることですので、こちらから強くお願いするのは少し違うかなという思いもありました。もちろん、患者様からストレートに「病院にお金がないの?」と聞かれることもありました。そんな時は、「改修費用のすべてを賄うためではなく、地域の皆さんと共に、新しい家族を温かく守る環境を創り上げたい。そのための象徴的な取り組みなんです」と丁寧にお話しさせていただきました。私たちの真意を伝えると、多くの方が深く納得し、応援してくださいました。
髙元様:今回のクラウドファンディングを通じて、職員たちは「支援を募る」という枠を超え、地域の方々といかに深い関係を築いていくかというコミュニケーションの本質を学ばせていただきました。企業さんとの繋がりが薄かったという当初の反省を活かし、現在はJR吹田駅前の街づくり団体や商店街の方々と定期的に交流を持つようになっています。これまでは接点が少なかった地域の皆さんとも、この活動をきっかけに確かなお付き合いが始まりました。

阪急京都線から見える連絡通路にも、CFに挑戦していることがわかる掲示物を。(活動報告より)
ーー資金調達以上の、大きな財産を得られたのですね。
髙元様:その通りです。どうすれば地域の方々に信頼され、応援していただけるのか。それを職員一人ひとりが実体験として学べたことは、病院の将来にとって非常に大きな価値があると感じています。
ーークラウドファンディング期間終了後に、何かクラウドファンディングを実施したこと でプラスに働いたことはございましたか?
岡利様:このプロジェクトをきっかけに、支援の枠を超えた深い関係性が生まれた素敵なエピソードがあります。ある個人の方がご支援をくださり、3月末に感謝状の贈呈式を行ったのですが、その際に当院のボランティア募集に興味を持たれ、すぐに応募してくださったんです。現在はボランティアとして、寄付とはまた別の形で病院を支えてくださっています。さらに、当院で他の済生会のクラウドファンディングをご存知になり、支援の輪を広げられたと伺いました。一つのきっかけがここまで繋がっていくことに、心から感謝しています。
高元様:地域との繋がりという点では、昨年(2025年)10月に開催した「済生会フェア」も大きな成果でした。クラウドファンディングを通じて親交を深めてきた商店街の方々と、半ば共同開催のような形で実施することができたのです。
小川先生:あの済生会フェアには、本当に多くの職員が自発的に、かつ前向きに関わっていましたね。
高元様:そうですね。実は、地域と密に関わりたい職員が多かったのだと感じました。クラウドファンディングで良い意味で「外の世界」に巻き込まれた経験が、フェアでのさらなる主体性に繋がったのではないでしょうか。
小川先生:結果として、当院の患者さんではない方々も含め、済生会フェアには本当に多くの方が来場してくださいました。準備のために遅い時間まで残って作業していた部署もありましたが、いざ終わってみると、まるで「万博ロス」のような寂しさをみんなが感じるほど、充実した一体感がありました。
ーークラウドファンディングから、色々な展開が広がっていますね。プロジェクトのテーマとなった産婦人科での動きもその後ありましたか?
髙元さま:おかげさまで産婦人科病棟の改修が無事に進み、新しくなった病棟をご覧になった方からは「以前とは全然違うやん、本当に綺麗になったね!」と、嬉しい驚きの声をいただくことが増えました。また、環境が整ったことで、現場のモチベーションもさらに高まっています。この活動を経て、助産師たちの中から「オンラインでの産後相談・ケア」といった新しいサービスへの挑戦が始まり、ハード・ソフトの両面で進化を実感しています。
小川先生:今の時代、子育てに孤独を感じ、悩みを抱えているお母さん方は非常に多いです。そのため、私たちは病室でのケアに留まらず、退院後の相談や家庭訪問など、地域に根ざした子育て支援にもこれまで以上に注力しています。小児科の役割は、単に病気の子どもを治療することだけではありません。子育てに関する不安や日常的な相談にも常に寄り添い、お母さんやお父さんを支えていく。今回のプロジェクトで得た皆様からの応援を力に変えて、そんな「家族に寄り添う医療」をより一層、深めていきたいと考えています。
ーー今回のご挑戦での成功を踏まえた、今後の展望についても伺わせてください。
小川先生:おかげさまで産婦人科病棟は美しく生まれ変わりました。ただ、産科病棟という場所の性質上、その変化を直接実感していただけるのは、現状ではまだ妊婦さんやそのご家族といった特定の層に限られています。一般の方やご高齢の方にとっては、病棟へ足を運ぶ機会はそう多くありません。ですから、新しくなったことで「地域の皆様にどれだけの安心を届けられるようになったか」という真の価値を伝えていくには、まだまだ努力が必要です。単に設備を整えて終わりではなく、あらゆる世代の方々に「この病院なら、これからの地域の命を任せられる」と信頼していただけるような、さらなる発信と研鑽が必要だと感じています。
髙元さま:次のステップは、まさに「本業を通じて、いかに地域の皆さんの期待に応えていくか」にあると考えています。例えば、小児科が始めた「赤ちゃんの頭の形外来」のような専門性の高い新しい試みが、他の部署にも波及してほしい。各部署が「次は自分たちが地域のために主役となって動くんだ」という熱量を持って、新しい医療サービスの創出に挑んでいける組織にしていきたいですね。
小川先生:産婦人科がこれだけの挑戦を成し遂げたのですから、他の病棟からも「次はうちもやりたい」という声が上がってくることを期待しています。ただ、今はまだ全力で駆け抜けた直後。少しの「充電期間」を経て、また新しい活力が湧いてくるのを待ちたいと思います。
岡利様:今回の挑戦を通じて、地域の皆さんから「済生会吹田病院さんの底力とパワーを改めて見させていただきました」という、非常に心強いお言葉をいただきました。正直なところ、私たち職員自身が、自分たちにどれほどの力が備わっているのかを分かっていなかった部分がありました。しかし、今回のプロジェクトでその「力」を自覚し、共有することができました。職員全員が自分たちのポテンシャルを信じられた時、また自然と「次の新しい挑戦」が始まっていくのだと確信しています。それがまた、クラウドファンディングという形になるのかもしれません。
ーー改めまして、今回は貴重なお話をお伺いさせていただきありがとうございました。

左から、髙元様、小川先生、岡利様(新しい陣痛室の芳名板の前で)
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