INTERVIEW

医療法人川崎病院様|「病院が一つになれる理由をくれた」――現場主導の『みんなの救急車』プロジェクトが生んだ、資金調達以上の価値 

医療法人川崎病院

  • 200〜399床

  • 民間

  • 物品購入

2026/05/27 00:21

地域の高齢化や医療課題に向き合うため、神戸市にある川崎病院様は新たな救急車の購入に向けたクラウドファンディングに挑戦しました。その結果、目標金額を達成しただけでなく、地域の方々からの温かい声援が目に見える形となり、職員の結束も強まるという大きな副産物が生まれました。

本記事では、経営層と現場が一体となってプロジェクトを進めた背景や、地域を巻き込む広報の工夫、そしてクラウドファンディングが病院組織にもたらした「資金調達以外のポジティブな変化」について、院長の西村先生、経営管理部副部長の久保様、副看護部長の成枝様、プロジェクトメンバーで広報室の黒石様、地域医療連携室の三田様にお話を伺いました。


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医療法人川崎病院

兵庫県・病床数275床・職員数約622名(2026年5月時点)


医療法人川崎病院は1936年に設立され、今年で90年を迎えました。これまでの歴史のなかでは、阪神・淡路大震災を乗り越え、地域医療支援病院、神戸市指定災害対応病院として地域を守り続け、救急医療、急性期医療、そして予防医療を提供してきました。

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クラウドファンディングプロジェクト

  • 地域で暮らす高齢者に安心を届けたい|「みんなの救急車」プロジェクト

  • 資金の使い道:病院救急車の新規導入

  • 動機:高齢化が進む地域で、通院や転院の支援を必要とする患者さんは年々増えています。そうした方々を切れ目なく医療につなぐためには、病院独自の搬送体制が欠かせない ーー
    それが、川崎病院が強く感じていた地域課題でした。自治体の救急車だけに頼るのではなく、地域の医療・介護に関わる方々との連携をより強くしながら、必要な人に必要な医療を届けたい。しかし、厳しさを増す病院経営の中で、その実現は容易ではありませんでした。だからこそ同院は、地域の皆さまと一緒に未来の医療体制を支える方法として、クラウドファンディングという挑戦を選びました。

  • 成果:支援総額22,751,906円(目標金額 10,000,000円) / 支援者123人

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目次


救急車購入にとどまらない、「病院全体を一つにする」ための挑戦

――川崎病院で救急車購入のためのクラウドファンディングに携わった皆さまにお話を伺います。まずは、それぞれのお立場から自己紹介をお願いします。

西村院長:川崎病院の院長を務めております西村です。地域の高齢化が進む中で、病院としてどう役割を果たしていくかを日々考えています。今回のプロジェクトでは、地域医療の課題という大きな視点から関わってきました。

久保様:経営管理部副部長の久保です。今回のクラウドファンディングでは、院内のプロジェクト推進や事務局的な役割を担いました。現場のメンバーが動きやすい体制をどうつくるかを意識していました。

成枝様:救急車導入後の運用に関わっている成枝です。現場の立場から、実際に導入して見えてきたことや、院内の変化についてお伝えできればと思います。

黒石様:広報を担当している黒石です。クラウドファンディングのページ制作や情報発信を中心に関わりました。病院の取り組みをどうすれば地域の皆さんに“自分ごと”として受け取っていただけるかを考えながら進めました。

三田様:地域連携を担当している三田です。医療機関へのクラウドファンディングの情報発信や、現金寄付を持参された方への対応等を担いました。

左:西村院長 右:久保様(経営管理部副部長)

左:西村院長 右:久保様(経営管理部副部長)

左:三田様(地域医療連携室)、中央:成枝様(副看護部長)、右:黒石様(広報室)

左:三田様(地域医療連携室)、中央:成枝様(副看護部長)、右:黒石様(広報室)

――ではまず、今回のクラウドファンディングに挑戦した背景を教えてください。

西村院長:この地域では高齢化が進んでおり、特別養護老人ホームなどの施設にも、重症化しやすい患者さんが多くいらっしゃいます。病院に行きたくても、高齢の患者さんは自力では来院できない方も少なくありません。こういった軽症〜中等症の高齢患者さんをどうスムーズに受け入れるかは、地域全体の大きな課題でした。

――その解決策の一つが、救急車の導入だったのですね。

西村院長:そうです。きっかけは法人の理事長が、倉敷中央病院のクラウドファンディングによる救急車購入の事例を知ったことでした。そこから「うちでもできないか」という話になったのです。

久保様:ただ、目的は単に車両を購入することだけではありませんでした。経営陣としては、クラウドファンディングに取り組むこと自体が、病院全体を一つにするきっかけになると考えていました。部署を越えて一つの目標に向かう経験は、病院にとって大きな意味があると感じていたのです。

――資金調達と組織づくり、その両方が目的だったのですね。

西村院長:まさにその通りです。結果として、救急車の必要性を再認識できただけでなく、「病院として何を大切にしているのか」を職員全員で共有する機会にもなりました。

昨年実施したクラウドファンディング

昨年実施したクラウドファンディング

「病院が救急車を買う」から「みんなで地域課題を解決する」への転換

――クラウドファンディングのページは、地域全体を巻き込むようなメッセージ性が強く、とても印象的でした。どのような考えで作られたのでしょうか。

黒石様:最初に私たちが託されたのは、あくまで「救急車を購入する」というテーマだけでした。運用の細かな部分はまだ固まっていなかったため、安易に「こんなことができます」と言い切ってしまうと、後々ずれが生じてしまいます。実績がない中で運用をお約束して齟齬が出るのを避けるため、そして何より「病院が救急車を買う」というだけの病院のためのプロジェクトにならないよう頭をひねりました。だからこそ、広く共感を得られ、なおかつ今後の展開にも対応できるコンセプトにする必要がありました。

――その結果、「病院が救急車を買う」ではなく、「地域課題を地域で解決する」という見せ方になったのですね。

黒石様:そうです。病院の話だけにしてしまうと、「大変ですね、頑張ってください」で終わってしまう可能性があります。しかし、救急車を導入して助かるのは病院だけではありません。救急隊の負担軽減にもつながりますし、本当に緊急性の高い方が適切に救われる地域づくりにもつながります。だからこれは、病院だけの問題ではなく、地域全体で向き合うべきテーマだと考えました。

――支援する側が「自分も関係者だ」と感じられる設計だったのですね。

黒石様:はい。「みんなで一緒に地域の課題を解決しましょう」という参加型のメッセージを意識しました。ページの構成も、最初に地域の課題がひと目で伝わるようにし、その後で詳しい情報を知りたい人が読み進められる流れにしています。

――その発信が自然だったのは、日頃から地域に出ていく広報姿勢があったからでしょうか。

黒石様:それは大きかったと思います。私たちは以前から、病院の広報は院内で完結するものではなく、地域に出て一緒に活動するものだと考えてきました。病院の名前を知ってもらうだけでなく、関わりの中で理解してもらう。そうした積み重ねがあったからこそ、「一緒にやりましょう」という呼びかけを受け入れていただけたのだと思います。

窓口で実感した「目に見える応援」――地域に頼られていることの再認識

――実際には、どのような方々から支援が集まったのでしょうか。

久保様:始める前は、開業医の先生方をはじめとする医療関係者からの支援が中心になるのではないかと想定していました。実際にふたを開けてみると、支援者数ベースでは約8割が個人の方で、そこは大きな驚きでした。一方で、支援金額ベースで見ると約7割は医療関係を含む法人企業の方々からのご支援で、その中には一部、一般企業からの支援も含まれています。

――人数と金額で、かなり見え方が変わるのですね。

三田様:そうなんです。人数だけを見ると、患者さんやご家族を中心とした個人のご支援が非常に多かったのですが、金額ベースでは、地域医療を支えている関係者の皆さまが大きく後押ししてくださいました。特に開業医の先生方からのご支援が多く、ほかにも薬局、介護事業者、訪問看護ステーションなど、日頃から地域医療の現場でつながっている方々に支えていただきました。

みんなの救急車プロジェクト支援者のご芳名

みんなの救急車プロジェクト支援者のご芳名

――一般企業からの支援もあったとうかがっています。

久保様:はい。支援金額ベースの約7割を占める法人からのご支援のうち、3割ほどは一般企業からのご支援でした。もともと健診などで深くつながりのある企業が多かったわけではないのですが、取引先の業者さんに加えて、地域の企業に「こうした取り組みをしています」とチラシをお送りしたところ、そこから反響がありました。病院と直接的な医療連携がある先だけでなく、地域の企業にも関心を持っていただけたのはありがたかったですね。

――皆様の場合、寄付金控除が適用されませんが、その影響を感じることはありましたか。

三田様:いえ、寄付金控除が効かないから支援しない、といった声はありませんでした。ただ、一部の法人さんから、寄付金控除が効くならもう少し大きな金額を支援したかった、というお声はありました。

――ありがとうございます。一方で、個人の方からの応援も非常に印象的だったのではないでしょうか。

黒石様:神戸市の「ふれあいのまちづくり協議会」という住民の皆さんが主体となったまちづくり組織の委員長の方々が川崎病院を支援しようと発信くださり、そこからご支援が入りました。こういった地域の方の発信・応援は大変ありがたかったです。

三田様: 病院窓口近辺に募金ブースを設置し、スタッフが直接立つようにしました。ここでも多くの方が「川崎病院を応援している」「今までお世話になったから」と声をかけてくださって、過去に受診された患者さんご本人だけでなく、ご家族やご親族の思いも一緒に届いていることがわかりました。中にはかなり大きな金額をご寄付いただいた患者さんもいらっしゃり、窓口での寄付募集は金額面でも大きなインパクトがありました。

――現場で応援の声を直接受け取ることには、特別な意味がありそうですね。

三田様:本当にそうでした。事務スタッフを中心に交代で窓口に立ったのですが、普段はなかなか直接聞くことのない感謝の言葉をいただいて、スタッフにとっても大きな励みになりました。地域の方々が当院のことをどう見てくださっているのかが、言葉として返ってきたことが大きかったです。

久保様:私たちとしては、今回のクラウドファンディングを通じて、地域医療に取り組んできたことへの信頼が可視化されたと感じています。個人の温かい応援と、医療関係者・企業の実務的で力強い後押し、その両方があって今回の挑戦は成り立ちました。

西村院長:ずっと地域医療に貢献してきたつもりではいましたが、今回改めて「頼りにされているんだ」と実感しました。それが見える形になったことは、職員全員にとって資金調達以上に大きな意味があったと思います。

「彼らならやり切れる」――日頃からの信頼が生んだ、中堅メンバー主導のボトムアップ

――今回のプロジェクトは、院内の体制づくりにも特徴があったとうかがいました。

久保様:一番のポイントは、管理職が口を出しすぎなかったことです。経営層の立場にいる人間は方向性の共有を受け承認することに役割を留め、実際の進め方は中堅層のメンバーに一任しました。人選も含めて、現場が主体的に動けるようにしたのです。

――かなり思い切った任せ方だったのですね。もともとボトムアップの文化がお強かったのですか?

久保様:いえ、もともと当院に強いボトムアップ文化があったわけではありません。ただ、数年前から力のある中堅層が育ってきていて、彼らならやり切れるという信頼がありました。

西村先生:私たちは「言われたことをやる」くらいの姿勢に徹していました。実際に私自身はその指示の下、も「みんなの救急車」というタスキを掛けて院内を歩き回りました(笑)。クラウドファンディングは資金調達だけでなく、ボトムアップで物事が動く組織風土の醸成にも寄与し、病院が一つになれる理由を私たちにくれたと感じています。

西村院長がタスキとともに院内を歩いた際の様子(活動報告より)

西村院長がタスキとともに院内を歩いた際の様子(活動報告より)

黒石様:細かく口を出すのではなく、「いいんじゃない」と大きく構えてくださっていましたし、こちらがお願いした地域への挨拶回りや講演会にも快く応じてくださいました。だからこそ現場も気持ちよく動けましたし、「院長先生のためにも頑張りたい」という空気も自然と生まれていたと思います。

――日頃の信頼関係があるからこそ、上手くいったんですね。プロジェクトを通じて、院内にはどんな変化がありましたか。

久保様:これまでになかった推進力が生まれたと思います。クラウドファンディングで多くの方に応援していただいたことで、「絶対に無駄にはできない」という共通認識が生まれました。部署を越えて協力する場面も増え、病院全体が一つの方向を向けるようになった感覚があります。


寄付がくれた「断らない救急車」を作る覚悟と、新しい結束

――クラウドファンディング終了後、購入した救急車の運用は進んでいらっしゃいますか?

成枝様:はい、すでに運用を開始しており、毎日コンスタントに患者さんの搬送が行われています。この車両がなければ、悪化してからタクシー等で無理に来院されていたであろう方もおられ、少なからず地域に貢献できていると思います。
救急、病棟スタッフ等、院内一丸となり、搬送される患者さんに向き合い、スムーズに対応できる体制もできています。

―― すでにしっかり運用が進んでいらっしゃり、素晴らしいですね!救急車の導入は院内の皆様にはどのような影響を与えていますか。

西村院長:職員の意識は明らかに変わりました。皆様からの寄付で購入した救急車だからこそ、「きちんと活かさなければいけない」という思いが強いのです。以前は新しい取り組みが軌道に乗るまで苦労することもありましたが、今回は病院全体で支えようという空気が最初からありました。

成枝様:現場でも「川崎救急は断らない」をモットーに、皆様からのご寄付という善意を決して無駄にはできないという強い思いで運用しています。寄付をいただいたことで、断らない救急車の運用を仕組みとして作る覚悟が決まりました。

黒石様:運用の中でも、状況に合わせて柔軟に話し合いながら進めていく体制ができています。特定の部署だけの取り組みではなく、院内全体で支えるものになっている。それはクラウドファンディングを経たからこその変化だと思います。

――車両デザインにも「みんなでつくる」という考えが反映されているそうですね。

黒石様:はい。地域課題の解決を掲げる以上、見た目も「病院のためだけの救急車」ではなく、「地域みんなの救急車」と感じられるものにしたかったのです。神戸電子専門学校の学生さんにも関わっていただき、一緒にデザインを考えました。街中で見かけた方から声をかけていただくこともあり、そこからまた新しいコミュニケーションが生まれています。

神戸電子専門学校でオリエンテーションを実施した時の様子(活動報告より)

神戸電子専門学校でオリエンテーションを実施した時の様子(活動報告より)

――最後に、これからクラウドファンディングに挑戦したいと考えている団体へメッセージをお願いします。

西村院長:今回、私たちは支援金だけでなく、地域からの「ありがとう」と、院内の新しい一体感を得ることができました。クラウドファンディングは、お金を集めるだけの仕組みではなく、組織や地域との関係性を育てる機会にもなり得ます。そのことを、これから挑戦する皆さんにもぜひ知っていただけたらと思います。

久保様:大切なのは、単なる資金調達の手段として考えないことだと思います。誰のための挑戦なのか、どんな課題を解決したいのかを言葉にできれば、周囲は思っている以上に応えてくれます。当院は比較的競合病院も多い都市部にありますが、日頃から様々な方々とのお付き合いがあります。プロジェクトメンバーがやれることを全部やりきれれば、しっかりご支援は集まると実感できました。そして、任せるべき人に任せること。現場を信じることで、組織は想像以上の力を発揮します。

――本日は、ありがとうございました。

今回クラウドファンディングを通して新しく迎えた救急車

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