INTERVIEW

桐生厚生総合病院様|「公立病院の壁」をどう越えるか。クラウドファンディングで実現した、地域医療の新しいかたち 

桐生厚生総合病院

  • 公的・国

  • 物品購入

  • 400~599床

2026/04/14 00:02


入院期間の短縮や在宅療養の増加が進むいま、病院に求められているのは「治して終わり」ではなく、「暮らしまでつなぐ」仕組みづくりです。そのため、病院は地域の医療を担う中枢的な存在として救急や紹介患者を受け入れる一方で、退院後の支援体制まで整えることが求められています。

そんな中、桐生厚生総合病院(群馬県桐生市・みどり市の医療圏に立地)が取り組んだのが、訪問看護ステーションの立ち上げと、その活動に不可欠な訪問看護車両の整備を目的としたクラウドファンディングです。

しかもこの取り組みは、院長先生ご自身がクラウドファンディングの起案から推進まで深く関わり、院内外に丁寧に発信しながら進められました。

公立病院によるクラウドファンディングは、「前例が少ない」「自治体など関係機関との合意形成が難しい」と感じる医療機関もいらっしゃいますが、本記事では、その背景にある現場のリアルや、実務上の工夫について、院長の加藤広行先生にお話を伺いました。

桐生厚生総合病院


群馬県・病床数404床・職員数約535名(2026年4月時点)

クラウドファンディングプロジェクト


  • 地域でその人らしく過ごす力になりたい。新たな訪問看護車両の導入へ

  • 資金使途:訪問看護ステーションで使用する訪問車両の購入費用

  • 動機:地域に不足する医療ニーズに応えるため設立した訪問看護ステーション。その活動に不可欠な訪問看護車両の購入にあたり、単なる資金調達にとどまらず、クラウドファンディングを通じてその存在を地域に広く周知し、応援の気持ちを可視化する仕組みを作ることを目的として実施。

  • 成果:最終的に目標金額を大きく上回る支援が集まっただけでなく、院内では部署を越えた横のつながりや意識改革が生まれ、地域においては企業訪問や窓口での寄付を通じて、病院と市民・地域企業との新たな関係構築につながった。

目次

病院の「訪問看護室」を「訪問看護ステーション」へ。病院完結型から地域共生型への転換を目指した挑戦。

――まずはじめに、桐生医療圏の特徴と桐生総合病院様について教えてください。

加藤院長:桐生医療圏は、桐生市とみどり市の2市で構成されており、人口は合わせて約15万人です。地方ならではの少子高齢化が進み、医療事情としては厳しい状況にあります。

この医療圏で公立病院は当院のみです(2026年3月現在)。民間病院はいくつかありますが、救急を受け入れている病院は、2カ所の民間病院と当院の合計3ヶ所です。

当院は1934年に開院し、開院から90年が経ちました。現在、許可病床は約400床、実際には360床ほどで運用する中規模病院として、他院から紹介された患者さんを中心に診ています。

――地域の中で「競合関係」がある、といった声も他の医療圏では伺うことがありますが、桐生医療圏の場合はいかがでしょうか?

加藤院長:もちろん立場の違いはありますが、地域を守るという意味では「競合」より「共闘」という感覚は強いです。

たとえば、当院が訪問看護ステーションを始めるとなった時も、「全部を担う」のではなく、地域全体で支えるという前提で進めています。

――桐生厚生総合病院さんは、地域医療戦略を病院内だけで完結させない姿勢が印象的です。院長先生ご自身が普段から他院にも足を運ばれていらっしゃるそうですね。

加藤院長:私が院長になってから、おそらく年間30か所ほどの病院を回っています。県内の大きな病院と情報共有をするための挨拶訪問が中心です。

その際に色々とお話を伺い、「いい取り組みだな」と感じるところがあれば、積極的に取り入れるようにしています。先日も、病床運用の方法について伺うべく、看護部と一緒に他院を訪問したところです。

――“学びに行く”を、院長先生が自ら実践されている。なぜそこまで外とつながることを大事にされていらっしゃるのでしょうか?

加藤院長:当院は独立した病院です。済生会さんや日赤さんのように、全国規模で情報共有できるグループ病院のようなネットワークがありません。

行政だけを見ている状態では、いわば「井の中の蛙」になってしまう。それでは医療の発展につながらないので、横のつながりを意識して、さまざまな病院を訪ねています。

県内に当院と同規模の病院が5つほどあるので、そうした病院とも会議体を作り、情報共有を進めています。

――コロナ禍でも、学びに行く動きは続けていらっしゃったんですよね。

加藤院長:はい。地域の方が情報から取り残されないように、という思いで続けていました。

昨年立ち上げた「訪問看護ステーション」やクラウドファンディングのアイディアも、そうした外部との接点の中から生まれたものです。

――「訪問看護ステーション」の立ち上げの経緯について教えてください。

加藤院長:地域にも訪問看護ステーションはいくつかあるのですが、退院後に「知らない訪問看護ステーションに引き継がれるのが不安」という声が多くありました。

実際に患者さんからも「病院として訪問看護をやっていないのか」と尋ねられることが増えていたんです。

当院は紹介患者さん中心の病院なので、地域の医師会や開業医の先生方との連携が大前提になります。だからこそ、入院中の治療だけでなく、退院後の生活まで“安心してバトンを渡せる仕組み”が必要でした。

――「訪問看護室」から「訪問看護ステーション」へ移行したことで、できることも変わったとお聞きしました。

加藤院長:実は、訪問看護ステーションを立ち上げる前に訪問看護室というものを病院の中で立ち上げていました。訪問看護室は病院の中の出先機関のような位置づけですが、訪問看護ステーションは県の許可を得て、病院とは独立した動きができます。

管理者も置いて運営しており、結果として、病院以外の地域の患者さんも受け入れられるようになりました。また、訪問看護ステーションへの移行で介護保険制度を利用される方への対応も可能となりました。

地域に“開く”ことで、これから連携の幅が一気に広がっていくのではと感じています。

院内に設置したブースの前で取材を受けた時の様子

院内に設置したブースの前で取材を受けた時の様子

なぜ“クラウドファンディング”だったのか──公立病院が挑戦する意義

――クラウドファンディングの実施を決めた背景について教えていただけますか。

加藤院長:きっかけは、済生会前橋病院さんが実施されたクラウドファンディングの取り組みです。D-MATカーの更新のためのクラウドファンディングを行っておられ、前橋病院の院長先生が医局の後輩ということもあり、話を聞く機会がありました。

その時から「うちでも何か機会があれば」と考えていて、アイデアとしては私が最初に出したと思います。

――テーマが訪問看護のための「車両」だったのも印象的です。選定の軸は何だったのですか?

加藤院長:訪問看護ステーションを地域の方に知ってもらいたいということと、「視える支援」であることが大きかったです。院内の備品や医療機器は寄付された方に見えにくいものだったりもしますが、訪問看護の車両は、地域の中で活動が目に見える。

寄付が「地域の暮らし」に直結するイメージを持ってもらいやすいと感じました。

挑戦されたクラウドファンディングプロジェクト

挑戦されたクラウドファンディングプロジェクト

――「行政がお金を出すべきでは?」という声が出ることを懸念される公立病院様もありますが、そこはどう整理されましたか。

加藤院長:実際にそのようなお声をいただくこともありました。ただ、公立病院であっても、地域との関係づくりや情報発信はとても重要です。

クラウドファンディングは資金を集めるだけでなく、今回のように「訪問看護ステーションを地域の皆さまに知っていただくきっかけにしたい」「応援の気持ちを可視化する仕組みをつくりたい」という目的で実施しました。

実際、桐生市とみどり市の両市長にも事前に相談し、承認をいただいています。市側も企業版ふるさと納税の仕組みを活用していたことから、「いい取り組みだね」と前向きに捉えてくださいました。

――公立病院だからこそ、支援者からの見られ方も違いますか?

加藤院長:そう思います。民間の病院と公立の病院が実施するのでは、支援者の方の捉え方も異なる部分があると感じました。公立病院は「お金儲けのためにやっている」という風にみられにくく、透明性として受け入れられやすいこともあるのかもしれない、と感じられることもありました。だからこそ、目的を誠実に伝え、透明性をもって進めることが何より重要だと感じました。


“公立病院の壁”をどう越えた?──前例のない挑戦を支えた合意形成の裏側

――公立病院のクラウドファンディングは「お金の流れ」が複雑だと感じる方も多いです。会計としてはどのような特徴があるんでしょうか?

加藤院長:当院は、桐生市とみどり市の2市で構成されている「企業団(事務組合)」です。いわゆる単独の市の会計に組み込まれている“市民病院”とは、少し仕組みが異なります。

――「微妙に違う」というのは、具体的にはどこが違うのでしょうか?

加藤院長:一番大きいのは、会計が独立しているということですね。市民病院では、病院事業が市の会計の一部として組み込まれていて、建築や教育など他の行政事業と並列に扱われることが多いと思います。

一方、当院は両市からの支援を受けながらも、病院としては独立した会計・運営体制をとっています。例えば、クラウドファンディングを実施する場合、集まった寄付は「企業団」に入ってくることになります。これにより、意思決定や運営の柔軟性が高いのが特徴です。

――クラウドファンディング実施にあたっての合意形成は、どのように進められましたか?

加藤院長:当院には、桐生市・みどり市それぞれの議員が参加する「病院議会」があり、予算や決算の審議を行っています。クラウドファンディングについても、この場で情報提供を行い、理解を得るプロセスを踏みました。

▼桐生総合病院様のクラウドファンディング実施決定までの流れ

  • 2024年9月

    クラウドファンディングセミナー受講 

  • 2024年10月〜12月

    プロジェクトの院内起案

  • 2024年12月

    訪問看護ステーション開設およびクラウドファンディング実施について両市の市長に事前報告

  • 2025年1月

    プロジェクトチーム発足、院内で準備開始

  • 2025年3月

    議会承認

  • 2025年4月以降

    クラウドファンディング準備開始

――“議決(承認)”を取るのではなく、“報告”として扱ったとも伺いました。

加藤院長:そうです。「こういう取り組みを始めますので、ご協力をお願いします」という形で、報告事項として整理しました。

日頃から議員の方に向けて「勉強会」を行っています。議会後などのタイミングで、医療に関する情報提供の場を設け、「訪問看護ステーションを始めます」「クラウドファンディングを実施します」と段階的に説明をしていました。

――院内の動かし方はどうでしたか?部署をまたぐ動きが必要だったと思います。

加藤院長:今回は普段の病院事業とは別の取り組みとなるので、院長の私がチームの人選を行いました。クラウドファンディングは資金管理、広報、窓口対応など、関わる役割が非常に多いと聞いていたので、役割を起点に部署を横断するチームを編成し、会議体をつくって進めました。

開始前に、済生会前橋さんにいろいろと丁寧に教えていただき、実際の運営のノウハウを共有していただいたことで、院内の不安を大きく軽減できました。

――クラウドファンディング期間中の院内の空気感などはどうでしたか?

加藤院長:病院としても、クラウドファンディングチームも最終的には盛り上がっていたのではないかと思います。特にラストスパートのカウントダウン施策では、さまざまな部署の皆さんに参加いただいたりしました。

――新しいことに挑戦するという文化はもとから根付かれていたのでしょうか。

加藤院長:公立病院ということもあり、実はもともと保守的な文化が根付きやすい状況ではありました。

そのため、新しい取り組みには慎重になりがちでしたが、「病院全体でひとつの事業を成し遂げる」ということを掲げ、クラウドファンディングが挑戦の機会、意識改革としてマッチしたのではないかと思っています。

「“現状維持”しているだけでは他のところに取り残されてしまう」ということを日頃から伝えています。今回はそれを打破する1つのきっかけにできたような気がします。

集まった“支援”が変えたもの──「現状維持」から「地域との共創」へ

――ご支援はどのように集まったのでしょうか?

加藤院長:済生会前橋病院さんの例をならって、窓口での寄付も実施し、そこからのご支援も非常に大きな割合を占めました。

チラシは最終的には4,000枚ほど配布しました。当初2,000枚印刷したのですが、すぐに足りなくなり、さらに2,000枚を追加印刷しました。院内では健診の窓口で配布し、商工会議所にもお願いして情報誌に掲載していただきました。また、医師会からもFAXでチラシなどの資料を流していただきました。

支援金額の比率としては企業が多く、人数の比率としては個人の方からのご支援が多かったです。

開始当日には、記者会見を実施。画面奥が加藤院長。

開始当日には、記者会見を実施。画面奥が加藤院長。

患者様からいただいた温かいメッセージ

患者様からいただいた温かいメッセージ

――院長先生が自ら企業をご訪問されたということもお伺いしました。

加藤院長:訪問看護ステーションの設立のお知らせとクラウドファンディングのお願いとして、企業を30カ所ほど訪問しました。他の訪問看護ステーションの事業者から「どうして今立ち上げられるのか」「患者さんが取られるのではないか」と疑問や不安に思われることもありましたが、そういったお声が聞こえた施設にはあえてご挨拶にいき、経緯を説明したりして、ご理解をいただくことも同時に進めました。こういった繋がりやご縁も、クラウドファンディングを通して新たに生まれたのも事実です。

また、企業を訪問するなかで、「ここも訪問してみるのはどうか」と逆に訪問先の方々に次の訪問先を教えていただく機会も多くありましたね。

――支援者の方からの反応については、ご不安もありましたか?

加藤院長:実は、問い合わせやネガティブなお声に備えて「Q&A」を用意していたんですが、結果的には出番がありませんでした。むしろ「頑張ってね」「応援してます」といった声が多く、好意的な反応がほとんどでした。

特に印象的だったのは、窓口での寄付件数がサイト経由より多かったこと。「これからお世話になるかもしれないから」と寄付してくださる患者さんもいて、オンラインだけでなく窓口導線を重視したのは正解だったと思います。

――資金調達以外の面での成果はありましたか?

加藤院長:大きく2つあります。まず院内では、ひとつのイベントとして話題になり、部署を超えた横のつながりが生まれました。訪問看護ステーションのスタッフは、「寄付でいただいた車で活動している」という意識もあり、単に予算で買った車とは現場の思い入れが違うように感じます。

もう一つは、地域との関係構築です。地域企業を訪問し病院への要望を聞くことができたり、市民の方の関心事を直接吸い上げられたのは大きな収穫でした。

また、訪問看護ステーション同士の関係も、最初は誤解があったとしても、丁寧に説明し、顔を合わせることで関係が良好になっていきました。新しい出会いが生まれたこと自体が財産です。

――ありがとうございました。

まとめ

在宅医療の重要性が増す今、病院はこれまで以上に地域との関わり方を問われています。

桐生厚生総合病院様が訪問看護ステーションを立ち上げ、クラウドファンディングに挑戦した背景には、地域にもう一歩近づきたいという、強い意思がありました。

今回の取り組みが示してくれたのは、「公立病院でもクラウドファンディングはできる」という事実以上に、丁寧に想いを伝え、対話を重ねれば、地域は必ず応えてくれるということです。

成功した要因は様々ありますが、とりわけ大きな要素としては、「日頃から外で学ぶ姿勢」という文化、そして、「“現状維持”しているだけでは他のところに取り残されてしまう」というお考えの2つと感じました。

院長先生ご自身が、他の医療機関に足を運び、成功事例を吸収しようとする姿勢や、そこで吸収した新たなことを取り入れる突破力こそ、今回の訪問看護ステーションの立ち上げやクラウドファンディングの挑戦を現実のものに導いたのではないでしょうか。

制度や調整が多く、決して簡単ではないからこそ、公立病院が挑戦することには、大きな意味があります。その一歩は、資金調達にとどまらず、病院と地域との関係を、未来へとつなぐ力になります。

同じような悩みを抱える病院にとって、「次は自分たちの番かもしれない」と思えるきっかけになれば幸いです。


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