INTERVIEW
瀬戸内海巡回診療事業
社会福祉法人
物品購入
2026/04/27 05:54

瀬戸内海の約60の島々を巡回し、「海をわたる病院」として離島医療を支えている「済生丸」。その運営を担うのが「瀬戸内海巡回診療事業」です。同事業は、老朽化したX線機器を更新するために、3,000万円を目標金額に掲げたクラウドファンディングに挑戦。目標額を大きく上回る4,000万円超のご支援が寄せられました。
『READYFORアワード2026』にもノミネートされたこのプロジェクトの成功の裏側には、担当者のどのような想いと工夫があったのでしょうか。事務局の運営を担い、四県8病院合同のプロジェクトを牽引してきた原田佳子さんに、お話をうかがいました。
瀬戸内海巡回診療事業
岡山・広島・香川・愛媛の四県の済生会支部が共同運営する、60年以上の歴史を持つ医療事業。国内唯一の診療船「済生丸」が瀬戸内海の約60の島々を巡回し、検診や診療、健康相談などの包括的な医療支援を提供。
クラウドファンディングプロジェクト
資金の使い道:診療に不可欠なX線機器3台の更新
実施動機:物価高騰等により運営側の資金捻出が困難な状況の中、瀬戸内海の離島医療を支える巡回診療船『済生丸』の老朽化したX線機器を更新し、島民の命と健康を守り続けるためにクラウドファンディングに挑戦。
成果:目標金額を大幅に上回る支援により、X線機器3台を更新。予防医学を通じて島民の健康を守る「済生丸」の活動を全国に広められた
目次
―まずはご自身と、済生丸の活動のご紹介をお願いします。
岡山県済生会病院の職員として、2023年2月から瀬戸内海巡回診療事業(以下、済生丸事業)の事務局で経理・人事・総務・広報など管理業務全般を担当しています。
「済生丸」は、1961年の就航以来、「自らの健康は自ら守る」という予防医学の考えを掲げ、瀬戸内海の約60の島々を巡回しながら診療を続けている日本唯一の診療船*です。「治療から予防へ」という理念のもと、中規模病院並みの診療機能を備え、診療や検診に加え、健康教室や栄養相談を行い、離島の人々が健康に安心して暮らせる環境づくりを推進してきました。
*定期的に巡回診療を行う船として国内唯一の診療船「済生丸」
―診療や検診に欠かせないX線機器3台を更新するために、クラウドファンディングという手段を選択した理由を教えてください。
済生丸事業は、岡山・広島・香川・愛媛の四県の済生会支部病院が共同運営しています。営利目的の事業ではなく、済生会が取り組むソーシャルインクルージョン事業であり、現在は各支部・病院からの負担金で運営しています。赤字が続くなか、老朽化にともないX線機器3台の更新時期が近づいていました。X線機器は発注から納入まで1年以上かかるため、補助金の対象にはなりません。どの病院もこれ以上の負担金は出せないという状況があり、四県の支部長、8病院の院長などが集まる運営会議で目標金額3,000万円のクラウドファンディング実施という方針が決まりました。

実施したクラウドファンディングプロジェクト
―四県複数病院の合同プロジェクトならではの難しさはありましたか?
済生丸を共同運営する8病院から2名ずつクラウドファンディングの担当者が選出されました。担当者は日々の業務を行いながら、支援候補者のリスト作成や広報活動などにあたりました。8病院それぞれの様子が見えないため、モチベーションを揃え、各病院に働きかけるのは苦労の連続でした。
なかには「3,000万円という目標金額の達成は難しいのではないか」というネガティブな意見もあり、金額の大きさが両肩にずっしりとのしかかりました。病院内で愚痴を言うわけにもいかず一人で抱えていたとき、力になってくれたのがREADYFORのキュレーターです。各県担当者を巻き込んだ定期的なイベントの開催に対するアドバイスや、情報共有のためのWEB会議をREADYFOR主導で実施してもらい、病院・スタッフ間の連携を強化しました。
―プロジェクトにかける想いが強くなった出来事があれば教えてください。
じつは、全国405施設を抱える済生会グループ組織全体でさえ済生丸の認知度は想像以上に低く、済生丸については知っていても、どこを巡回しているのかなど、詳細の活動内容まで知る人はわずかでした。
一般の方についても、イベントなどで済生丸の活動を紹介しても、瀬戸内四県在住の方でさえ、60余年にわたる済生丸の活動を知っている方は非常に少ない状況で...。しかし、そうした逆境が私のやる気に火をつけました。
―どのような広報活動を行いましたか?
SNSについては、まずは済生丸について知ってもらうことを目的に、クラウドファンディング公開約1年前に済生丸のX公式アカウントを開設しました。開設とほぼ同時期に、担当者と相談の上、フォロワーを増やすために「ステッカープレゼントキャンペーン」をXで実施しました。認知拡大と実用性を兼ね備えたグッズとしてステッカーの製作が決まり、自分たちでデザインも手がけました。スマホやパソコンに貼るなど、とても喜んでいただき、反響がうれしかったですね。各病院にも設置したところ、すぐなくなるほど好評で、「そのステッカー、どこでもらえるの?」という言葉は広報活動の励みになりました。

製作したステッカーのデザイン
さらに2025年1月には、済生丸事業の認知拡大のために、「済生丸お絵かきコンテスト 」も実施しました。Xとプレスリリースで呼びかけ、性別や年齢問わず全国から約30人に応募していただきました。コンテスト参加賞として済生丸の見学券を提供したところ、愛知県から見学に来てくださった方もいて、活動の広がりを実感しました。また、特賞の絵をポストカードに採用して、支援者へのユニークなギフトにできました。
その他済生丸のオリジナルペーパークラフトなども作成し、身近なグッズから済生丸に興味を持ってもらい認知を高めていく作戦は大成功。「ステッカーをもらったよ」「ペーパークラフトを作ってみたよ」とXにてリツイートをしてくださる方も増え、話題を呼びました。

左:お絵描きコンテストポスター / 右:コンテストで最終候補に残った4作品
―病院内での認知拡大については、どのようなアプローチを行いましたか?
全国の済生会グループ職員が集まる「済生会学会」で済生丸のVR体験を実施し、船内をVRで体感してもらいました。「このX線機器3台を更新するためにクラウドファンディングをするんです」と紹介すると、「始まったら寄付するよ!」と温かい声をいただきました。VR体験は予想以上に反響が大きく、1時間待ちの行列に。READYFORの担当者にも手伝ってもらい、イベントをのり切りました。
*VR体験について、現在はHP上でもご覧いただけます。

「済生会学会」での様子:済生丸のブースを用意
―広報活動を経て、「済生丸プロジェクト」の認知・理解は、どのように変化しましたか?
地域のイベントで出会った地域事業に携わる方々には、「次はあそこに行ってごらん」「この会社にも声をかけるといいよ」と地域のつながりでたくさんの方を紹介していただきました。チラシ配りやポスター掲示のお願いには、自ら足を運ぶようにしていました。会期中にチラシを握りしめて支援金を持ってきてくださった方の姿を見たときは、うれしかったですね。
病院内の認知・理解についても、クラウドファンディングがスタートすると達成率に注目が集まるようになりました。プロジェクト概要ページの達成率バーに船のイラストをあしらい、支援が集まるにつれて船が海をわたっていく演出を加えたのですが、「半分まで集まったね」「あともう少しで達成できるね」という会話が院内のあちこちで生まれ、関心が高まっていくのを肌で感じました。なかには寄付してくれた職員や警備員もいました。
―会期終了1週間前に目標金額3,000万円を達成。最終的な支援金額は4,000万円を超えました。
一般的にスタートダッシュ期間に支援金額がぐっと伸び、その後しばらくはなだらかで、ラストスパート期間に追い上げるプロジェクトが多いとREADYFORの担当者から聞いていました。同じ展開を予想していましたが、実際は公開から終了まで着実に右肩上がりを維持し、達成率が伸び悩む時期はほぼありませんでした。公開後もメディアへの声かけは継続していて、会期中はテレビやラジオ、ウェブなど合計30以上の媒体に露出しました。計画的なメディア出演が、非常に効果的だったと感じています。READYFORの担当者から「目標額を達成しました!」と電話が入ったときは、とにかくホッとしたのを覚えています。
―支援者はどのような方が多かったのですか?
支援者数は、現金での寄付を合わせると合計1,267人でした。取引先企業や提携している医療機関からも支援していただきました。高額な寄付もいただきましたが、個人などによる積み重ねもとても多い結果でした。済生丸が運行して60余年が経ちますが、かつて離島で暮らし、現在は本土に移住した元島民の方も「島にいるときはお世話になったから」「小さいころに診てもらっていたから」と支援してくれたのです。支援者のなかには、かつて済生丸で診療していた医師や看護師、技師もいました。また、支援者の紹介でポスターの掲示やチラシの配布にご協力いただき、そのご縁で支援金をいただくこともありました。

地域の夏祭りイベントでもブースで呼びかけ。子どもたちにも大人気のブースとなりました。

四県の各病院内にもブースを設置し、ご支援の呼びかけを行いました。
―支援金を募るとき、伝え方で工夫されたことはありますか?
取引先企業や提携医療機関には寄付という言葉を使いましたが、一般の方には「寄付してください」よりも、「クラウドファンディングを始めているから、よかったらご友人やお知り合いに広めてください」と伝えました。自分が支援者だったならそうした言葉に心を動かされるだろうと感じましたし、済生丸が行っている離島医療の支援という事業の尊さを、一人でも多くの方に知っていただきたいという気持ちが何よりも強かったからです。
実際にクラウドファンディングの支援の呼びかけ以外にも、開設した済生丸のXで毎日欠かさず済生丸の島々への巡回の様子を投稿し続け、島の様子や巡回船の運行に携わるスタッフについて、リアルに知っていただくための情報発信にも力を入れていました。

Xでの投稿の様子
島民の高齢化が進み、島で暮らす方のなかには足が不自由な方もいます。スーパーやコンビニエンスストアがなく、買い物は移動販売や定期便が頼りという離島もあります。それでも、島民のみなさんは、圧倒的に利便性が高い本土より、住み慣れた島で暮らしたい。こうした方々のために済生丸事業があるのです。これからも、この事業の尊さをより多くの全国の方々に知っていただきたいと願っています。
―これからクラウドファンディングに挑戦しようと考えている方へアドバイスをお願いします。
これから挑戦する方へ伝えられることがあるとすれば、「情熱が大事」ということです。今回の挑戦を通じて、「想いは伝わる」と確信しました。Xのフォロワーは0人から始まって、現在は1,000人を超えました。オンラインであれ、対面であれ、「人と人のつながり」に心から感謝しています。
―本日はありがとうございました。
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