INTERVIEW
大阪府済生会吹田病院
400~599床
社会福祉法人
設備改修
2026/01/26 04:21

80年という長きにわたり、地域周産期医療の要として生命の誕生を支えてきた【大阪府済生会吹田病院さん】。少子化という逆風のなか、病院の“原点”である周産期病棟の改修という一大プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングに挑戦されました。
目標を大きく超えるご支援を集め、単なる資金調達に留まらず、職員の意識変化や地域との新たな絆を生み出したその成功の裏側には、どのような想いと工夫が隠されていたのでしょうか。今回は、周産期センター長(新生児)である小川先生、事務長の髙元様、そしてプロジェクト事務局の岡利様にお話を伺いました。
前編では「テーマに込めた想い」と「歴史と信頼が繋げた支援」についてお届けします。
大阪府済生会吹田病院
大阪府・病床数440床・職員数約1076名(2025年12月時点)
クラウドファンディングプロジェクト
資金の使い道:周産期病棟改修費
動機:資金調達を通じて産科病棟の改修を行い、妊産婦が安全、安心、快適に出産できる環境を整備すると同時に、病院の歴史と地域貢献への取り組み、地域と共に未来へ継承する意識を強化していくこと
成果:目標金額を大きく超えるご支援をいただき、病棟の改修ができただけでなく、職員の意識変化、地域との絆、新しい取り組みが生まれた
目次
ーーまずはじめに、自己紹介をお伺いします。小川先生から、ご経歴と携わられた背景をお伺いしてもよろしいでしょうか。
小川先生:済生会吹田病院の小児科・新生児科の科長を務めております、小川哲(おがわ さとる)と申します。このたび、周産期センター長も兼任することとなりました。私は小児科の中でも、特に高度な集中治療を必要とするNICU(新生児特定集中治療室)の分野を志し、母校である大阪医科大学の関連病院の中で、初めてNICUが設置された当院に赴任いたしました。
1990年代当時、小児医療、とりわけNICUのような集中治療分野は、公的な資金援助が十分とは言えず、経営的にも非常に厳しい状況にありました。そのため、私は一医師として現場に立つだけでなく、責任ある立場として、病院経営や診療体制の構築についても長年向き合ってまいりました。
今回のクラウドファンディングは、もともと産婦人科病棟を中心としたプロジェクトとして動いていたものです。私自身が直接関わることになったのは開始直前のタイミングでしたが、看護部長から「ぜひ一緒に」と声をかけていただいたことがきっかけでした。私には「やるからには全力で取り組む」という信念があります。また、周産期センター長という立場からも、病院全体の重要なプロジェクトとして責任を持って完遂したいと考え、今回正式にメンバーとして加わる決意をいたしました。
ーー看護部長さんは先生がこのプロジェクトに必要だと考えられていたのですね。
小川先生:多くの医療機関がそうであるように、当初、院内におけるクラウドファンディングへの関心は決して高いとは言えない状態でした。特に医師は日々の診療に忙殺されており、こうした新しいプロジェクトに組織として取り組むためには、現場の理解と協力、そして緻密な調整が欠かせません。
そのような状況下で、看護部長は「診療科をまたいで院内をまとめ上げ、強力に推進していく存在が必要だ」と考えてくれたのだと思います。私自身、これまで責任者として診療体制の構築に携わってきた経験を活かし、その期待に応えたいという強い思いから参加を決意しました。
ーー済生会吹田病院さんは都市部近郊に位置されており、周りにも多くの病院があると思います。クラウドファンディングのテーマ選定や広報活動で懸念されていたことなどありましたか。
小川先生:そうですね、当院の周辺には大阪大学医学部附属病院や国立循環器病研究センター、吹田市民病院、済生会千里病院といった高度な急性期病院が数多く存在します。しかし、今回テーマとした「周産期医療」に関しては、状況が少し異なります。
実は、赤ちゃん、特に集中治療が必要な新生児は、小児科医であれば誰でも診られるというわけではありません。周産期専門医(新生児)としての高度な専門知識と経験、そして専用の設備を備えた「新生児医療」のスペシャリストが求められる分野なのです。当院は開設当時から、この地域における周産期医療の拠点として明確な役割を担ってきました。
そのため、今回のプロジェクトについても「地域に不可欠な医療を守る」という大義名分がはっきりしており、テーマ選定において大きな懸念はありませんでした。結果として、地域の皆さんへの広報や支援の呼びかけも、自信を持ってスムーズに進めることができたと感じています。

ーー続いて、事務長の髙元様のご経歴もお伺いしてもよろしいでしょうか。
髙元さま:私は大学卒業後、約20年間にわたり病院にて事務全般に携わってまいりました。 2021年に済生会吹田病院へ赴任し、2022年10月より事務長を務めております。当院に着任してまず強く感じたのは、ここが「吹田で最も長い歴史を持つ病院」であるという重みでした。そして、その長い歴史の原点を辿れば、周産期医療、すなわち産婦人科に行き着きます。
私たちの最大の強みは、この積み重ねてきた「歴史」そのものにあると考えています。だからこそ、今改めてその原点に立ち返るべきではないかと考えました。現在は少子化という厳しい逆風の中にありますが、生命の誕生という奇跡に携わり続けてきた病院であることは、非常に誇らしく、素晴らしいことだと思うのです。
その原点にある情熱を、小川先生をはじめとする現場の職員たちは今も変わらず大切に持っています。その想いを何らかの形で目に見える形に表現し、地域の皆さんに伝えたい。それが、事務長としてこのプロジェクトを推進しようと考えた大きな理由です。
ーー歴史が長いからこそできるクラウドファンディングであり、テーマも“原点”である新生児科・周産期だと感じられたのですね。
髙元さま:その通りです。近隣の民間病院等を見渡すと、お母さんがより快適に、安心して過ごせるような環境整備が非常に進んでいます。一方当院においては、こうした環境整備の面の対応が遅れている状態でした。
しかし、こうした環境改善は、患者さんの期待に応えるためだけでなく、これからも地域の中で当院を選び続けていただくために、決して避けては通れない欠かせない要素であると確信していました。「何とかして実現したい」という強い思いをずっと抱いていたのです。その手段を模索する中で、クラウドファンディングは単なる資金調達の道具ではなく、「ご支援いただく方の想いを受け取り、私たちの想いを届ける」ための双方向の取り組みであると気づきました。先行事例を見ても、病院が大切にしている考えや姿勢を、世の中に最も明確に表現できる手段だと感じたのです。
私たちが持つ強み、そして原点にある志を、もっと多くの方に知っていただきたい。現場には、リスクの高い非常に難しいお産に日々向き合い、産前・産後もボランティアに近い精神で手厚く寄り添っている助産師たちがいます。職員たちが誇りを持って働けるよう、職場環境を整えてあげたいという思いもありました。
以前、先行して助産師の相談コーナーを改装しましたが、今回はそれに続く、より本質的で大規模な改善が必要です。それが、今回この大きな挑戦に踏み切ったきっかけとなりました。
ーーつまり、産科をより良い環境にというテーマは元々あり、その実現のために今回クラウドファンディングを選ばれたのですね。
小川先生:その通りです。お産は常に予期せぬ事態が起こり得る、命に直結する医療です。私たちは、そのリスクと日々真剣に向き合っています。一方で、昨今は患者さんのニーズも多様化しています。「安心・安全」であることは大前提として、さらに「快適さ」や「思い出に残る体験」、そして「産前産後の心身の負担を少しでも軽くしたい」といった要素を重視して病院を選ばれる方が増えています。
当院の建物は私が赴任する以前から使われており、築年数も経過しているため、壁紙の傷みなどが目立つ箇所もありました。今回のプロジェクトは、単に見た目をきれいにするだけではありません。「NICU(新生児特定集中治療室)やGCU(新生児回復室)といった高度な設備を備え、母子の安全を最優先で守れる病院である」という当院本来の強みを、改めて目に見える形で整え、発信していくための挑戦でもあります。

改修後の分娩室:分娩室を完全個室化し、引き戸により双方向アクセスができるようになりました。(活動報告より)
高元さま:当院の原点である「周産期」という強みを改めて打ち出すことで、院内にもポジティブな変化が生まれるのではないか、という大きな期待もありましたね。
小川先生:実際、今回のクラウドファンディングを通じて、院長をはじめ多くの職員の間「済生会吹田病院は周産期医療に総力を挙げている病院なのだ」という再認識が広がったと感じています。
髙元さま:コロナ禍においても、当院は他院で対応が困難だったCOVID-19感染妊婦の方々を積極的に受け入れ、その経験から得た知見は研究会で報告するなど、地域医療を守る活動が評価されました。今回のプロジェクトは、そうした実績と信頼を、さらに未来へ繋げていくためのステップだと考えています。
ーー院内外広報やプロジェクトマネジメントを担当された岡利さんにも、ご経歴とプロジ ェクトに携わることになった背景を伺ってもよろしいでしょうか。
岡利さま:当院に入職して9年目になります。実は入職前は診療放射線技師として医療現場に立っておりましたが、当院への入職を機に事務職へ転身いたしました。現在は総務課に所属し、主に広報、寄付対応や地域向けの健康講座の企画・運営などに携わっております。これまで地域の皆さんとの接点を持つ業務を多く担当してきた縁もあり、この度、事務長より本プロジェクトのマネジメントという大役を拝命いたしました。
ーークラウドファンディングを進める上で、院内での役割分担はどのように決められたのでしょうか。
岡利さま:施設改修計画の具体化に伴い、私は事務局としてプロジェクトに加わりました。クラウドファンディングを「単なる資金調達」ではなく「病院の想いを届ける広報活動」と定義させていただき、実務は総務課が中心となり、戦略的な情報発信を担うことになりました。
体制構築にあたっては、院外への発信だけでなく、院内広報や職員の意識醸成が不可欠でした。その点については、看護部長に強力にバックアップしていただいたことが非常に大きな力となりました。また、事務長からも「広報担当としてプロジェクトを牽引するように」との激励を受け、組織を挙げた挑戦であることを再認識し、非常に身の引き締まる思いで臨みました。
ーー広報業務は総務課で担当されているのですね。
岡利さま:はい。病院の全体的な広報戦略は、私が所属する総務課が担っています。今回のプロジェクトでは、総務課の広報担当スタッフにも全面的に協力してもらい、課を挙げてクラウドファンディングを推進しました。特に広報のデザインについては、「どうすれば病院の想いが伝わるか」と、メンバー間でかなり議論を重ねましたね。目標達成という一つのゴールに向けて、課内がまさに一丸となって取り組むことができました。
ーーその中でもクラウドファンディングの事務局は、岡利さんだったのですね。
小川先生:本当にその通りです。彼がリーダーシップを発揮して、実務を力強く動かしてくれたからこそ、私も「全力で協力しよう」という気持ちになれました。
髙元さま:小川先生の存在も非常に大きかったと感じています。先生は事務職をはじめ、職種の垣根を越えて非常にフレンドリーに接してくださるので、現場からの相談やお願いもしやすい。健康講座などの新しい試みにも常に前向きで、何かを始めようとすると真っ先に「よし、やろう」と力を貸してくださいます。その行動力と、周囲を自然に巻き込んでいくリーダーシップには、いつも感銘を受けています。
小川先生:「この病院のために、そして周産期病棟のために、私たちに今何ができるのか」。その問いを共有し、同じ方向を向いた素晴らしいメンバーが集まりました。共通の信念があったからこそ、それぞれの専門性や役割は違っても、プロジェクトとして一つにまとめることができたのだと思います。
例えば、阪急電車の車窓から見える場所にクラウドファンディングの告知を掲示することになった際も、活発な議論がありました。特に「お金の話(支援の呼びかけ)をどこまで前面に出すべきか」という点は非常に悩み、議論を重ねました。最終的には、現在の達成状況にも触れつつ、「この場所に病院があり、今新しい挑戦をしている」ということをまずは知っていただくための工夫を凝らしました。こうした細かなアイデアが次々と生まれたのも、全員が「自分たちのプロジェクトだ」という当事者意識を持っていたからこそだと思います。
小川先生:当院は昨年、創立80周年を迎えました。この地域では「親子三代、あるいは四代続けて吹田済生会で生まれた」というご家庭も珍しくありません。昭和20年の開院当時、大阪北部において総合病院は当院しかなく、1970年の大阪万博の時期には、千里ニュータウンのお産を一手に担い、年間3,000件以上の分娩を行っていた時代もありました。
また、昭和30年代にはすでに未熟児室を設置するなど、私たちは周産期医療において極めて長い歴史を積み重ねてきました。一時期は「日本で生まれる赤ちゃんの約1,000人に1人がこの病院で誕生している」と言われたほどです。そうした背景があるからこそ、私たちは自分たちの提供するお産に対して、並々ならぬ誇りを持っています。
これまで私たちは、24時間365日、妊産婦さんの搬送を絶対に断らない体制を貫いてきまた。かつては医師2人が1ヶ月間交代で泊まり込むような過酷な時期もありましたが、「赤ちゃんの命をつなぐためには、それが当然である」という信念がありました。そうした背中を見て育った後輩たちが、今、新生児科医としてその志をしっかりと継承してくれています。コロナ禍においても、他院で受け入れが難しかった陽性の妊婦さんを積極的に受け入れるなど、生まれてくる命がある限り、私たちは常に全力で向き合ってきました。

左から、岡利様、小川先生、髙元様(改修後の新生児室にて)
髙元さま:近年は、ホテルのような設備を備えた快適な民間病院やクリニックで出産される 方も増えています。そのため、今回のプロジェクトを始めるにあたっては、院内から「近隣 のクリニックと競合しているように受け取られないか」「患者さんを奪い合っていると思わ れないか」といった懸念の声も上がっていました。
しかし、実際に蓋を開けてみると、そうした批判的な反応はほとんどありませんでした。それどころか、地域の医師会の方々からも温かい応援をいただくことができたのです。これは、小川先生方をはじめとする歴代の医師たちが、長年かけて築いてこられた地域医療への貢献と、強固な信頼関係があったからこそだと確信しています。
小川先生:たとえクリニックで出産される方であっても、万が一、母子に緊急事態が起きれば、赤ちゃんは当院のNICUへ搬送されてきます。そうした役割分担と連携体制は、地域医 療の中で既に確立されているのです。どこで出産されるかはお母さんご自身の選択であり、私たちはそれを尊重しています。ですから、クリニックとの競合という点については、私は 最初から全く心配していませんでした。

プロジェクトページより
ーー信頼関係という点では、ご支援にも繋がるところはあったのでしょうか。
髙元さま:はい。地域の開業医の先生の中には、クラウドファンディングの期間終了後に「遅くなってしまったけれど」と、わざわざ直接ご支援を届けてくださる方もいらっしゃいました。日頃から共に地域医療を支え合う信頼関係を、改めて実感する出来事でした。
小川先生:連携医療機関の先生方からは「これまで数多くの赤ちゃんを助けてもらった恩返 しだから」といった温かい言葉もいただきました。また、ある同窓の先生は、外来の窓口ま で足を運び、そっと支援金だけを託して、私に声をかけることもなく静かに帰られたそうで す。非常に印象深く、背筋が伸びる思いでした。
「内部の意識の変化」も大きかったと感じています。総務課をはじめとする事務職員は、日々の業務の中で現場の医療に深く触れる機会が限られています。そこで、現場の真実を知ってもらいたいと考え、私が担当している患者さんお二人にインタビューをお願いしました。そのインタビューを通じて、岡利さんが「当院はこれほど素晴らしい医療を届けていたんだ。地域の皆さんはもちろん、全職員にこの価値を知ってもらいたい」と心から感じてくれたことは、プロジェクトにおいて決定的な転換点になったと思います。
◾️患者さんへのインタビュー
A ちゃんの成長日記(活動報告)

K くんのお母さんたち(活動報告)

岡利さん:クラウドファンディングへの挑戦は、単なる資金集めではありませんでした。患者さんや地域の皆さんの生の声に触れることで、自分たちの病院が持つ真の価値を再発見する、極めて貴重な機会となりました。その想いを持って広報にあたったところ、地域の皆さんもポスターの掲示などに快く協力してくださり、応援の輪が目に見えて広がっていきました。
~地域のみなさんとの絆~ その①(高浜神社様)

~地域のみなさんとの絆~ その②(スポーツバー「バスケバル R 」様)

~地域のみなさんとの絆~ その➂(アンジェナカムラ様)

髙元さま:一方で、企業さまからのご寄付については、正直なところ苦戦した面もあり、こ れまでの関係づくりが十分ではなかったという反省も残りました。しかし、昨年10月の「済 生会フェア」では、地元の有力企業をはじめ、今まで以上に多くの企業さんがバックアップ してくださいました。これは、岡利さんが数年前から健康講座や地域イベントを通じて、地 道に信頼の種をまいてきた成果だと感じています。
また、当院の名誉院長が長年培ってきた地域の皆さんとの強い絆も大きな力となりました。 何かあればすぐにご相談をいただけるような深い繋がりから、多くの方々に多大なるご支援をいいただくことができました。
ーー皆さんが培われてきた関係構築から生まれたご支援や繋がりもあったのですね。
今回のインタビューでは、80年という長きにわたり吹田の地で生命の誕生を支え続けてきた、済生会吹田病院の「原点」とも言える周産期医療への強い想いについて伺いました。
続く後編では、このプロジェクトを成功に導いたユニークな広報戦略の舞台裏に迫ります。子どもたちも巻き込んだ「ガチャ」や「チャレンジボード」の仕掛け、そしてクラウドファディングが病院スタッフの意識や組織文化にどのような変化をもたらしたのか、同院が描く未来のビジョンとともにお届けします。
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