INTERVIEW
2025/12/18 02:56

2025年10月12日(日)、札幌コンベンションセンターで開催された全日本病院学会にて、READYFOR共催のランチョンセミナー「急性期からケアミックス型へ機能転換。大雄会第一病院が変革期に挑戦したクラウドファンディング」が開催されました。
座長に社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長補佐の神野 正隆 先生、演者に社会医療法人大雄会 医療技術部局長兼大雄会第一病院 事務長の日比野 友也 氏を迎え、医療界における「クラウドファンディング」活用の意義についてお話しいただきました。
こちらの記事では当日の講演内容をレポートいたします。
目次
はじめに、今回のセミナーの座長である恵寿総合病院の神野先生からご自身の実施経験を踏まえクラウドファンディングの基礎知識と現状について解説いただきました。
医療機関におけるクラウドファンディングの意義や効果について、資金調達はもちろん重要ですが、それ以外の効果も非常に大きい点が強調されました。
具体的には、病院の役割を広く知らせること、地域住民や支援者との信頼関係の構築、メディアやSNSなどによる広報効果、職員のモチベーション・士気の向上などが挙げられます。
医療機関の調達額の中央値は1200万円と高い傾向にあり、アンケート結果では、「取り組みの発信・PRができた」と感じる医療機関は8割、「職員のモチベーションアップにつながった」と感じる病院は7割に上ります

医療機関がクラウドファンディングに挑戦する際は、「READYFOR」を選ぶ事例が大半を占めており、現在までに200以上の医療機関が取り組んでいます。クラウドファンディング自体はもはや、医療機関にとって特別な試みではなくなってきています。
最近のトレンドとしては、物品購入(救急関係、医療機器)のウェイトが増加傾向にあり、昨年度は50件以上の医療機関が取り組みました。

続いて、神野先生が勤める恵寿総合病院(石川県)のクラウドファンディング事例を紹介いただきました。
能登半島地震の発災からわずか5日目、恵寿総合病院様は、クラウドファンディングを開始しました。
https://readyfor.jp/projects/keiju

平時の3倍以上の業務に追われる中、あえてクラウドファンディングを実施した背景には「災害でも医療を止めない」「できない理由ではなくやれる方法を考えよう」という強い意志がありました。
また、支援の窓口を一本化したことで、結果として医療関連のクラウドファンディングでは最速・最高額となる約1億954万円(支援者2,496名)もの支援が集まりました。
特に印象的だったのは、以下のエピソードです。
圧倒的なスピード感:「できない理由ではなく、やれる方法」を考え、通常数ヶ月かかる準備を数日で実施
マメな発信:返礼品の代わりに、3ヶ月間で147本(毎日1本以上)の活動報告をアップし続けた
クラウドファンディングが心の支えとなった:集まった資金以上に「全国からの応援メッセージ」が職員の心の支えとなり、ワンチーム感の醸成につながった

最後に、神野先生は、クラウドファンディングは運営次第で「地域に愛される病院の推進力」になり得るとまとめました。
続いて登壇した大雄会第一病院・事務長の日比野氏は、「組織変革のための広報戦略」としての活用事例を紹介しました。大雄会は愛知県一宮市を拠点とする、2023年度に創立100周年を迎えた法人です。
同院は急性期から回復期・地域ケアへの病床機能転換を進めていましたが、院内には「急性期が花形」という意識が根強く、スタッフのスキルや価値観の転換が課題でした。
そこで、「地域高齢者のための送迎車両増車」をテーマにクラウドファンディングを実施されました。クラウドファンディングの大きな目的は、このプロジェクトを通じて「病院の機能変更を院内外に周知すること(インナー&アウターブランディング)」でした。

【なぜ病床機能転換をしたのか?】
日比野氏は、医療を取り巻く外部環境の厳しさについての分析を述べました。
2025年問題:団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)を迎え、社会保障費の負担増、働き手不足が深刻化
2040年問題:団塊ジュニアが65歳を迎え、人口減少と労働人口の急減が同時に進行
医療従事者の人手不足:労働供給が減る一方、高齢化に伴い労働需要が増大し、その差は広がる一方である
地域医療構想:全国的に急性期病床が過剰で回復期病床が足りない状況
高齢者の救急と在宅医療の急増:2040年に向け、高齢者の救急搬送や在宅医療が急激に伸びる
このような状況を受け、愛知県の尾張西部医療圏でも、急性期過剰・回復期不足の状況にあり、高齢者に対する医療、特に在宅医療の充実が急務であり、そういった地域ニーズに併せた機能転換でした。
【地域連携のための送迎サービスとクラウドファンディング計画】
第一病院は、地域の高齢者施設の人手不足を軽減するため、入退院時に施設まで職員が送迎を行うサービスを開始。このサービスは高齢者施設職員の負担を大幅に軽減するなど、感謝の言葉が多く寄せられました。


しかし、送迎サービスの依頼が急増し、1台体制では足りないという懸念が生じたため、「地域とつなぐ未来へつなぐ」をテーマに、送迎車両を1台増車するためのクラウドファンディング(目標金額600万円)を行うことになりました。
https://readyfor.jp/projects/daiyukai2024

その中で、今回のクラウドファンディングの最大の目的である「地域と院内への広報戦略」を達成するために必要な戦略について紹介いただきました。
【POINT1】徹底した「巻き込み」戦略
日比野氏は、クラウドファンディング成功の要因のひとつに院内外への「巻き込み」戦略をあげました。
地域の「巻き込み」戦略:
メディア活用:開始初日にラジオ出演、地元新聞掲載などでプロジェクトの意義を訴求
高齢者への配慮:インターネットが苦手な方々のために、銀行振込や窓口での直接寄付に対応

院内の「巻き込み」戦略:
チームづくり:事務長をはじめ、看護部長、事務長補佐、広報課長、財務部係長で構成した「院内を巻き込むためのチーム」をつくり、役割分担を行った
院内での「見える化」:病院入口にパネルを設置し、寄付額に応じて花が増える仕掛けで進捗を可視化し、楽しみながらチームワークを醸成するとともに、寄付者からの「応援メッセージ」を院内で共有し、職員のモチベーションと誇りを高める施策を実施

結果、目標の240%を達成し、送迎車は救急車両へバージョンアップ。
支援者は地域住民と職員関連が最も多く、狙い通り地域と院内の結束を深めることに成功しました。
【POINT2】ステークホルダー別の交渉術
続いて、支援を呼びかける相手によって訴求ポイントを変える工夫も紹介しました。
地元企業・ロータリークラブ:地域医療崩壊の危機と機能転換の決断を伝え、地元愛に訴求
地域住民:この地域で100年続けることができた感謝を伝え、ご恩返しと地域医療を守るために舵を切ったことを説明
地域の高齢者施設:職員の皆様の負担低減のためにお手伝いをしたいと説明
金融機関:「資金不足ではなく、発展のための施策」と強調

送迎車両を購入するだけであれば資金調達は可能だったが、あえてクラウドファンディングを選んだのは、病院の内部環境に課題があったためだと言います。つまり、クラウドファンディングの一番の目的を「広報戦略」と捉えていました。
セミナーの最後、日比野氏はクラウドファンディングを「病院のブランド力の強さの物差し」であり、「病院経営の通信簿」であると表現しました。
クラウドファンディングを成功に導くために重要な軸として、以下の5つを挙げました。

日比野氏は、今回のプロジェクトを組織変革の著名なフレームワークである「コッターの8段階のプロセス」になぞらえて総括しました。

変革の第一歩として、まず「危機意識を高める」ことが不可欠です。「我々が変わらなければ地域医療において生き残れない」「高齢化社会に対応する機能が不足している」という危機感を共有し、その上で目的を持った変革推進チームを結成。「地域の高齢者が安心して住み続けられる」という適切なビジョンを掲げ、SNSやイベントを通じて組織内外へ周知徹底を行ったことが重要であったと振り返ります。
こうした土台の上で、クラウドファンディングは変革プロセスにおける「短期的な成果を生む」という重要な役割を果たしました。
寄付金額という明確な数字で成果が可視化されることは非常に分かりやすく、職員の自発的な行動を促します。成果が見えることで「もっとやろう」という前向きな気持ちが生まれ、職員のモチベーション向上につながると述べました。
さらに、送迎車両の増車はあくまでスタート地点であり、今回の成功をきっかけに、未来に向けて変革を組織に根付かせていくことこそが重要であると強調しました。
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この記事は、10月12日(日)に札幌コンベンションセンターにて開催された、全日本病院学会 ランチョンセミナー「病院経営におけるクラウドファンディング活用の意義」の開催レポートです。
座長:神野 正隆 先生(社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院)
演者:日比野 友也 氏(社会医療法人大雄会 医療技術部 局長 兼 大雄会第一病院 事務長)
共催:READYFOR株式会社
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