INTERVIEW
社会医療法人加納岩 加納岩総合病院
〜199床
物品購入
民間
2025/08/04 01:00

(スタッフと共に。一番右が中澤院長。)
加納岩総合病院 院長の中澤良太様にクラウドファンディング実施の経緯や反響について伺いました。
社会医療法人加納岩 加納岩総合病院
山梨県・160床・職員数 339人
クラウドファンディングプロジェクト
スポーツ障害に悩む若者や痛みに苦しみながら働くすべての人を助けたい!
資金の使い道:整形外科領域の医療機器(体組成計、拡散型体外衝撃波治療器)の導入費用
動機:資金調達のみならず、病院の認知度UPと地域共創の良い機会になると考えた。
成果:地域からの感謝の声や支援を受け、職員のモチベーションも上がり、組織の一体感も醸成。地域とのつながりも深まり、広がった。また、新しい取り組みの認知が広がり、集患にもつながった。
目次
ー まずはご自身と加納岩病院様のご紹介をお願いします。
山梨県山梨市の加納岩総合病院で院長をしております、中澤良太と申します。私自身も当院のある山梨県山梨市出身です。都内の医学部に進学・卒業後は整形外科の分野で研鑽を積み、2019年、地域への恩返しがしたいとの想いで山梨に戻り、2023年10月に当院の院長に就任しました。実は学生時代から野球に打ち込んでおり、甲子園球児でもあった過去の経験から、現在でもスポーツドクターとしても活動しております。
当院は急性期一般病棟120床と地域包括ケア病棟40床の160床規模の地域病院です。社会医療法人加納岩グループに所属しており、グループとしては、精神医療を担う日下部記念病院、全病棟回復期の山梨リハビリテーション病院など多機能を有し、グループ内での地域包括ケアシステムの構築を目指し医療を提供しています。
― どのような特徴や課題のある地域なのでしょうか。
当院のある山梨市は、隣接する甲州市、笛吹市、と併せて“峡東地域”と呼ばれています。人口約13万人で、高齢化が進んでいる地域です。
このあたりは、富士山をはじめとした山々に囲まれた緑豊かな盆地で、第一次産業が盛んな地域です。特にぶどう・ももといった果樹栽培が盛んです。そのため農作業による身体的負担が大きい方が多く、農業従事者をはじめ地元で長年働く方々や、最近ではスポーツに励む学生も多く受診しています。
―特徴的な医療ニーズなどがあれば教えてください。
特徴的な課題としては、“受診タイミングの制約”があります。農家さんは、農繁期には病院に来たくても来られないという環境にあります。そのため、痛みなどを我慢し、症状を悪化させてしまうというリスクがあります。受診されたとしても、「農繁期が終わらないと入院も手術もできない」とおっしゃる方も多いので、農作業を続けながら治療できる体制づくりが求められています。
― クラウドファンディングへの挑戦の背景にも、そういった地域ならではのニーズがあったのですね。
はい。当院の治療対象者の第1の柱はやはり農家さんです。3月から10月の農繁期はとにかく農作業ファーストで、自分の体調より果実の状態が優先、外来入院ともに減少傾向にあります。そして10月以降は一転して、翌年の農繁期に向けて治療を行い、身体の調整をされる状況です。シーズンインとシーズンオフがはっきりした農家さんの治療スタイルはプロアスリートにも通じます。
第2の柱は青少年アスリートをはじめとしたスポーツに取り組む方々です。目標とする大会を控えケガをした場合、痛みを抱えながらプレーすることも少なくありません。障害を起こさないギリギリのラインを慎重に見極め、時に選手・家族・指導者と相談しながら、復帰プログラムを作成しています。
しかし当院は、こうしたニーズに応えるだけの十分な治療機器があるとは言えない状況下にありました。
私たちは、地域の皆さんが打ち込みたいことに打ち込むことのできる環境を整えることが地域の活力になる、と考えています。そこで整形外科領域で新たな医療機器を導入し、治療の選択肢を広げて地域の皆さんをサポートすべく、クラウドファンディングへの挑戦を決断しました。
―資金調達にはいろいろな方法がある中で、なぜ、クラウドファンディングを選ばれたのですか?
クラウドファンディングであれば、目的達成へ向けての様々な広報活動が、結果的に院内の方針や取り組みを知っていただくという絶好の機会となり、病院の認知度向上へも寄与できると考えたからです。
プロジェクトへの関係人口を増やすことで、ただの資金調達では味わえない達成感や喜びを多くの方と共有できる。そこで生まれた院内外での繋がりが、地域活性化や共創社会の実現のきっかけとなりうるのではと考え、クラウドファンディングを活用することとしました。

ー 具体的にはどのように支援の呼びかけを行ったのでしょうか?
まずは知人や地元の方々へ向けて支援を呼びかけて、そこから二次的な拡散の協力を依頼しました。同時に、プロジェクトページの充実や、InstagramなどのSNSも積極的に利用し、広域に支援を呼びかけました。
職員も協力的で、素敵なポップを作成し院内に掲示してくれました。常勤の先生方も非常に協力的で、科を越えて支援の輪が広がりました。クラウドファンディングページやSNS上では、せっかくなので当院の良さを知ってもらいたいという目的で、各部署の紹介で職員の仕事ぶりを“見える化”しました。
実はクラウドファンディング開始当初、院内からは少なからず懸念や不安の声があったことも事実です。それでも、数名のプロジェクトメンバーを中心に、少しずつ各部署を巻き込みながら情報発信を続け、結果がでてくるのに伴って、段々と一体感が生まれていきました。

(クラウドファンディングページ活動報告より)
―情報発信において、地域との連携はありましたか?
プロジェクトの発信と同時に地域全体の魅力も発信していくことにしましたので、地域の方との関わりは多かったです。例えば当院の前のお世話になっている歯科医院さんや峡東地域のブドウ農家さん。山梨初ニューイヤー駅伝参加を果たした実業団駅伝チームのことなども紹介し、多くの企業や地域の方が賛同・協力くださいました。
地元のロータリークラブの例会にも参加し、地元企業の方々にも、大きなご支援を賜りました。
ラジオ番組にも呼んでいただき、地域に対する思いや、クラウドファンディングに挑戦する理由などについて発信しました。出演時の音源を頂けたことで、外来の待ち時間に流すこともでき、リアルタイムのラジオリスナーだけでなく、来院された多くの方に私たちのメッセージをお届けすることができました。その結果、院内に設置した特設ブースに直接お越しいただく方が増えるなど、支援の輪がさらに広がりました。
ー院内外に支援の輪が広がり、プロジェクト成功に結び付いたのですね。
はい。多くの方のご協力を得て、目標を大幅に超える1,250万円ものご支援を頂きました。目標金額は750万円でしたので、達成率は最終的には165%まで伸びました。「こんな小さな地域でもやれるんだ」「我々を応援してくださっている方々がこんなにもいたんだ」と再認識することができました。この挑戦への結果は、職員の誇りと自信・団結力の向上にも繋がる、大きな財産です。

(「達成に感謝」クラウドファンディングページ活動報告より)
ー治療機器の購入を主な使途とされたプロジェクトでしたが、導入後の反響はいかがですか?
当初のクラウドファンディング支援目標金額を750万円に設定させていただき、①体組成計と②”拡散型体外衝撃波”の購入を目指しておりましたが、皆様の温かいご支援により、目標金額を大きく上回る1200万円の支援金が集まったことでより深部の治療に特化した”集束型体外衝撃波”の購入が可能となりました。
今回購入した集束型体外衝撃波治療器は、アスリートの現場では重宝されている医療機器ですが、高額なこともあり全国的にもまだ導入施設は少ない状況です。今回、山梨県で初めて当院に導入ができたことで、これまで他県に紹介せざるを得なかった方々の治療が可能になりました。また、入院手術が難しい農繁期の農家さんたちにも治療の選択肢を増やすことができました。
併せて購入した、寝た状態でも計測可能な体組成計では、入院患者さんの筋量などの状態把握が容易になり、リハビリ現場ではより効率的で質の高い医療サービスをできるようになりました。
なお、この治療は保険外診療での提供が多いのが現状ですが、医療機器の導入費用部分をクラウドファンディングで支えていただいたことにより、ニーズのある患者さんが治療にアクセスしやすい価格での医療提供も可能になりました。
導入した機器の予約枠は既に飽和状態で、多くの方がリピーターになっています。院長就任時と比べて、現在整形外科の外来患者数は単月で、多い時は約1.5倍程度増えている状況です。

(納品された体組成計に喜ぶスタッフ達)
ー改めて、今回クラウドファンディングに実際に取り組んでみての感想をお聞かせください。
今回の活動を通して院内外で様々な繋がりが生まれ、関係性が深まり、組織としても「我々ならできる」といったマインドセットが生まれました。組織活性化効果は十分にあったと感じています。
これからの医療業界は淘汰が進み、激動の時代に入ると予測しています。限られた資源を有効活用できるように病院・地域・行政・企業が連携し、時にシェアし合い、地域単位で資源流通の最適化をしていくことが今後重要になる。一過性で終わることのない“地域共創力”を付けることで、持続可能な社会の実現を目指せると感じています。
ー最後に、今後の展望をお願いいたします。
私はプロ野球選手にはなれませんでしたが、今はプロ医療選手として地域のためにプレーしています。プロアスリートがファンやサポーターからの応援で最高のパフォーマンスをするように、私たちも患者様や、応援くださる地域の皆様あってこその存在です。当院のファンを一人でも多く増やし、さらにはこの地域や山梨県のファンも増やしていくことが、いま私に課せられているテーマの一つではないかと思っています。
私たちが目指しているのは、「支える医療」ではなく「支え合う医療」です。地域全体が協力し合うことで、より強固な医療体制を築くことができます。単に患者さんの来院を座して待ち診療をする「待ち医者」ではなく、地域とともに行動を起こし、地域全体を元気にできる真の「町医者」でありたい。仲間を増やし、地域共創力をもつ病院でありたい、そう思っています。
私たちの事例を参考に「自分たちの病院もぜひ取り組んでみたい」と感じていただければ幸いです。
※本記事は2025年6月にREADYFORが共催した【みらい病院シンポジウムvol.3「進化か淘汰か。未来を切り拓く病院経営】でのご講演を元にしております。医療法人川崎病院様|「病院が一つになれる理由をくれた」――現場主導の『みんなの救急車』プロジェクトが生んだ、資金調達以上の価値
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