HOKKAIDOしっぽの会様|誠実さがつないだ信頼。命を守るため、9年ぶりの再挑戦
2026/08/31

認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会が2025年の春、9年ぶりとなるクラウドファンディングに挑戦しました。
2024年に過去最高となった医療費、物価高騰による運営費の増加、そして老朽化した施設。複数の課題が重なるなかでの挑戦でした。
とはいえ、クラウドファンディングに携われる人は限られていました。保護犬・保護猫の日々のケアを最優先にしながら、告知やリターンの手配、関係先への連絡まで、限られた期間でこなす必要があったのです。
そうして始まった挑戦には、募集終了までに1,082人からの支援が集まりました。限られた人数で、どのように準備を進めたのか。そして、クラウドファンディングを通じて何を得たのか。挑戦を決めた背景から、その後に残った実感まで、同会の代表を務める上杉由希子さんにうかがいました。
北海道夕張郡長沼町を拠点に、広大な北海道全域をフィールドとして犬猫の保護・譲渡活動を行う認定NPO法人です。行政機関から引き取った犬猫や、多頭飼育崩壊、野犬・野良猫など行き場を失った犬猫を受け入れ、新しい飼い主へつないでいらっしゃいます。「人と動物が共生する幸せな社会」の実現に向けた啓発活動にも取り組んでおり、上杉由希子さんが代表を務める団体です。
真冬には‐20度になる北海道長沼町に暖かい猫舎を建築したい!
・実施時期:2016年
・資金の使い道:猫舎建設のための費用
・成果:目標金額7,000,000円に対し、718名の方から7,632,000円が集まった

・実施時期:2025年
・資金の使い道:保護犬猫たちの医療費(750万円)や老朽化した施設整備(580万円)に使用
・成果:第一目標金額15,000,000円に対し、1,082名の方から24,450,000円が集まった

目次
── 2016年に一度クラウドファンディングに挑戦されてから、9年が経っていました。もう一度クラウドファンディングに挑戦しようと思われた背景を教えてください。
上杉さん:2016年の時は猫舎がなくて、冬でも暖かく猫たちが快適に暮らせるようにということで実施させていただきました。

2016年のクラウドファンディングで完成した猫舎
今回の2025年のクラウドファンディングは、医療費が例年より大幅に増えてしまったこと、そしてこの数年の物価高騰によって運営が強く圧迫されたことが背景にあります。さらに施設の老朽化も深刻で、犬舎だけでなく猫舎の一部も冬場はとても寒く、断熱工事を含む修繕が必要な状況でした。安心して過ごせる環境を整えるためにも、こうした工事を実施する必要があり、クラウドファンディングに踏み切りました。
── 普段から寄付も受け付けていらっしゃるなかで、もう一度クラウドファンディングを選ばれた理由はどこにあったのでしょうか。
上杉さん:私たちはオンライン寄付のほか、年4回発行している会報誌に振込用紙を同封し、長く支援してくださる皆さまにご協力いただいてきました。ただ、活動をより多くの方に知っていただくためには、既存の方法だけでは届かない層があることも感じています。新しい方々にも関心を持っていただくために、これまでとは異なる媒体や新しい形の発信に挑戦する必要があると考えるようになりました。
── 実際に動き出すとなると、準備物も工数もかかります。団体の中で反対意見が出たり、実施までに乗り越えなければならない壁があったりはしませんでしたか。
上杉さん:反対意見があったわけではありませんが、実際に動けるスタッフが限られているのが現状です。犬猫のお世話やケアが最優先であり、その合間にサイト更新や告知、リターンの準備、関係機関への連絡などを進めなければなりません。しかも短期間で実行する必要があるため、担当できる人数が少ない中で進めるのは正直かなり大変でした。それでも何とか形にしようと、みんなで力を合わせて取り組みました。
── それでも実施を決められたのは、どういうお気持ちからでしたか。
上杉さん:人手や時間の問題はもちろんありますが、それ以上に乗り越えるべき課題がありました。そこを越えなければ、目の前の犬や猫、そしてその先にいる一頭を救うという私たちの理念を実現できなくなってしまいます。だからこそ泣き言は言わず、できる限りの力を注いで取り組みました。その点に迷いはありませんでした。良くも悪くも、短期間だったからこそ一気に実行できた部分もあり、全員で覚悟を持って進めた挑戦でした。

HOKKAIDOしっぽの会の皆様
── 準備期間中は、READYFORのキュレーターと打ち合わせを重ねられたと伺いました。関わりの中で、特に印象に残っていることはありますか。
上杉さん:最初から最後まで本当に多くの工程がありました。私たちはどうしても“保護の現場”という視点で物事を見ますが、キュレーターさんは「READYFORの支援者の皆さんにどう届けるか」という全く別の角度から見てくださっていました。写真選びでも、私たちは別の写真が良いのではと思っていたのに、トップ画像には冬の雪景色の写真を選ばれたんです。実際の公開は4月でしたが、あえて冬の写真を使うという発想は、私たちだけでは辿り着けなかった視点でした。

HOKKAIDOしっぽの会様らしさが伝わるTOP画像に
── 準備の中で、想定外だったことはありましたか。
上杉さん:ハプニングというものは特になかったと思います。事前に必要な準備や進め方を丁寧に教えていただいていたので、心構えができていたというのが大きかったです。少し時間が経っていることもありますが、振り返ってみても困ったことはほとんどなかったと感じています。
── 期間中の業務は、どのように分担されていたのでしょうか。
上杉さん:応援コメントへの返信は私が担当していました。リターンの種類を選んだり、各お取引先との連絡を取ったりしてくれたのは別のスタッフです。表に出る運営面は主に私が担い、領収書の発行については、普段から寄付名簿を管理しているスタッフや、領収書のデータ化をお願いしている方にも協力していただきました。全体としては、5名ほどの体制で進めていたと思います。
── 応援コメントの数の多さが印象的でした。クラウドファンディングを実施していない期間も含めて、ご支援者様との関わり方で気をつけていらっしゃることはありますか。
上杉さん:私たちは活動当初から、透明性を非常に重要な柱としてきました。その中で、ネガティブな情報であっても隠さずに伝えることを続けてきました。団体にとって都合の良い情報ではないかもしれませんが、一例では、感染症が拡がった時などは、リスクを知らないまま来訪される方を防ぎたいという思いがあり、HPやSNSでも情報公開しました。伝える責任があると考えているからです。こうした積み重ねこそが、しっぽの会への信頼につながってきたと強く感じています。
── 日々の対応で、大切にされていることはありますか。
上杉さん:支援者の皆さまや、ご意見・ご指摘をくださった方に対しても、一件一件、私だけでなくスタッフ全員が丁寧に対応してきました。相談内容が自分たちだけでは解決が難しい場合でも、できる限りアイデアを出し、お返事をするよう心がけています。丁寧であること、誠実であること、そして透明であること。これは活動当初から変わらず続けてきた姿勢です。事実を誇張したり、嘘を交えたりすることは一切ありません。その積み重ねが、しっぽの会への信頼につながっていると強く感じています。

── 応援コメントには、上杉さんがすべて返信されたと伺いました。
上杉さん:応援コメントは本当に嬉しかったです。どれも温かくて、力をいただきました。すべてのコメントに返信させていただきましたが、応援してくださる皆様がコメントを書くために時間を割いてくださっているわけですから、一つひとつ、感謝の気持ちを込めてお返ししました。
── 今回は、寄付金控除が受けられるコースと、通常のリターングッズが届くコースを両方ご用意されていました。この設計にはどんな背景がありましたか。
上杉さん:実を言うと、リターンを希望される方は思っていたより少なかったんです。多くの方が寄付金控除のための領収書を希望されていました。私たちの活動は「何かの見返り」を求めるものではなく、保護活動そのものの成果を期待して支援してくださっているのだと感じています。

── 上杉さんにとって、クラウドファンディングというプラットフォームはどんな存在でしょうか。
上杉さん:READYFORは、願いを叶える場所だと感じています。団体としての希望や、個人の思いや願いを、誠実に、そして熱意を込めて伝えれば、きちんと届く場所です。資金調達の手法というよりも、思いや覚悟が表に出ていく場であり、それを受け取ってくださる方がいる。そんな温度のある場所だと強く思います。
── 支援が集まったことで、活動にはどんな変化がありましたか。
上杉さん:クラウドファンディングを実施して、金銭的な面はもちろんですが、活動の中で気持ちが少し軽くなったというか、前を向いて頑張っていこうという気持ちになれました。本当に心強かったですし、嬉しかったですね。
── 今後の展望についてもお聞かせください。
上杉さん:どうやって一頭でも多くの命を救い、次につないでいくかということは、私たちだけの力では到底できない部分がたくさんあります。行政や民間、関係団体、そして地域の皆さんの理解と協力が欠かせません。私たちがすべてを担おうとしても限界がありますし、むしろ、どのような体制で連携を取り、提案し、形にしていくかがとても重要な時代になってきたと感じています。

関係者との打ち合わせの様子
── 最後に、一歩を踏み出せずにいる全国の保護団体様へ、メッセージをいただけますか。
上杉さん:活動をしている間には、良い時もあれば、思うようにいかず苦しい時もあります。クラウドファンディングに挑戦したのも、一番厳しい運営状況から「命」を未来につなぐためでした。
支援をお願いすることは決して簡単ではありませんが、声を上げたからこそ届く支援があり、支援が集まるからこそ守れる命があります。目の前の「命」を守り続けるために、明るい未来を信じて歩みを止めないことは、必ず力になると思います。

取材を通して印象に残ったのは、人手や時間に限りがあるなかでも、「目の前の命を守るために必要な課題を越える」という軸がぶれなかったことでした。同時に、ネガティブな情報も隠さずに伝え、相談やコメントに一件一件応える。そうした日々の積み重ねを、上杉さんは支援者との信頼につながってきたと感じています。
HOKKAIDOしっぽの会にとって、クラウドファンディングで得られたのは資金だけではありませんでした。キュレーターとの準備を通して、自分たちだけでは持てなかった「どう届けるか」という視点を知る。寄せられた応援の言葉に励まされ、前を向いて活動を続ける力を受け取る。挑戦そのものが、活動を支える方たちとのつながりを改めて感じる機会になりました。
その先に上杉さんが見ているのは、団体の規模を大きくすることではなく、行政や民間、地域の方、関係団体と連携しながら、一頭でも多くの命をつないでいくことです。自分たちだけですべてを抱えず、周囲の力も借りながら、できることをかたちにしていこうとしています。
人手や時間に余裕がないと、クラウドファンディングへの一歩をためらうこともあるかもしれません。そんなとき、まずは「何を守るために挑戦したいのか」「誰と力を合わせながら進めたいのか」を言葉にしてみませんか。
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