INTERVIEW
鳥飼八幡宮様|SNSだけでは届かなかった地元に向き合い、資金ではなく“ご縁”を集める
鳥飼八幡宮
2026/01/08

福岡市中央区に鎮座する鳥飼八幡宮。地域の行事やマルシェ、フェスを開催するなど、先進的な取り組みでも注目を集める神社です。そんな同宮が令和4年から着手したのが、3年間にわたる「遷宮(せんぐう)計画※」でした。
※遷宮(せんぐう)…社殿の修繕や建て替え、御神体を新しい社殿へお遷しする一連の事業のこと。
この歴史的な事業を支えるパートナーとして選んだのがクラウドファンディング。それも、1回きりの支援募集ではなく「3カ年の遷宮計画を、3年連続のクラウドファンディングで実現する」という、中長期の挑戦でした。
華やかな成功の裏にあったのは、初年度の“失敗”と、そこから得た大きな学びでした。今回お話を伺ったのは、実務の要を担った神職の高野さんと、宮司・山内さん。スマートなイメージとは裏腹な、地元への“泥臭い”向き合い方がもたらした変化について、じっくりと語っていただきました。
鳥飼八幡宮
鳥飼八幡宮は、福岡市中央区今川に鎮座する、約1800年の歴史を持つ古社です。神功皇后が新羅からの凱旋の折、鳥飼の地で村人のもてなしを受けたことを喜んだことをきっかけに、村人がこの地に社を建てたのが始まりと伝えられています。御祭神は、厄除け・文化の神として崇敬される応神天皇、子安の神として知られる神功皇后、良縁を結ぶ玉依姫尊の三柱で、古くから「むすび」のご神徳で地域に親しまれてきました。
福岡藩主・黒田家の氏神としても厚い信仰を集め、八幡宮の中でも特に由緒ある一社とされています。近年は205年ぶりとなる大規模な遷宮事業に取り組み、本殿・拝殿・祖霊殿などを現代の技術とデザインで再整備。祖霊殿はグッドデザイン賞も受賞し、「100年後、1000年後も地域に必要とされる神社」をめざして環境整備を進めています。
さらに、境内ではマルシェやグルメイベント、音楽フェスなど多彩な催しも積極的に開催。クラウドファンディングを通じて参道のバリアフリー化や境内整備に取り組みながら、地元の方々はもちろん、遠方から訪れる人々にとっても「気軽に立ち寄れる開かれた神社」として進化し続けています。
クラウドファンディングプロジェクト
【2期目の挑戦】鳥飼八幡宮令和の遷宮|皆さまの願いを結ぶ磐座と表参道の建立を
挑戦期間:2023年6月26日〜2023年8月11日
資金使途:表参道の整備や磐座「勝軍岩(仮称)」の建立など、神苑の刷新にかかる費用の一部
成果:目標金額 3,000,000円に対し、6,724,000円の資金調達に成功
【3期目の挑戦】鳥飼八幡宮の遷宮、最終章へ|百年先に残る祈りと集いの場を皆様と共に
挑戦期間:2024年10月10日〜2024年11月29日
資金使途:鳥飼八幡宮遷宮事業として弁財天さまのお社を造営
成果:目標金額 6,000,000円に対し、10,289,000円の資金調達に成功
※遷宮計画1期目は別のプラットフォームにて資金調達を実施。目標金額1000万円に対し約300万円を調達。
目次
―― はじめに、お2人の自己紹介をお願いします。
高野:
鳥飼八幡宮には2021年に職員として入り、2023年から神職を務めています。
今回のクラウドファンディングでは、
プロジェクトページの原稿
SNSやホームページでの発信
返礼品の発送
など、ほぼ全般を担当しました。
山内:
私は宮司の山内です。鳥飼八幡宮の代表として、全体の方針決定や舵取りをしてきました。クラウドファンディングの打ち合わせにも、基本的に高野と2人で出ていました。
―― 鳥飼八幡宮さんは、これまでに複数回クラウドファンディングに挑戦されていますよね。最初に挑戦されたきっかけから教えていただけますか?
高野:
一番最初の挑戦(=遷宮計画:1期目)は、READYFORさんではなく、別のプラットフォームで挑戦した本殿・拝殿の建て替えを目的としたプロジェクトでした。目標は1,000万円。しかし、目標には届かず、自分たちの想いややりたいことはまったく届きませんでした。
ただ、その経験のおかげで、クラウドファンディングの仕組みや、自分たちの課題が見えてきたんです。
――そこから、READYFORでの挑戦につながったのですね。
高野:
はい。1回目の挑戦が終わったあと、「もう一度やろう」という話を宮司としていた頃に、ちょうどREADYFORさんから「こういう取り組みを一緒にどうですか?」というご連絡をいただいて。提案してくれた担当キュレーター(※)の方の熱意がすごくて、「この人となら一緒に良いプロジェクトが作れるかもしれない」と感じたのが大きいです。
山内:
そうそう。メールだけじゃなくて、実際に話してみて、「彼女と、READYFORさんとならやってみよう」と。正直なところ、きっかけは“人柄への一目惚れ”みたいなところも大きかったですね(笑)。
※キュレーター…プロジェクトの準備から公開・達成まで伴走させていただく担当者
――資金調達以外に、当時、どんな課題を感じていましたか?
山内:
資金調達よりも前に、「鳥飼八幡宮の取り組みを知ってもらうツールが少ないな」と強く感じていました。クラウドファンディングは、もちろんお金を集める手段ではあるんですが、私は「まず知ってもらうこと」「ファンや仲間を増やすこと」の方が大事だと思っていて。資金調達はその結果としてあとからついてくるもの、というイメージでしたね。

整備前の旧拝殿
――READYFORでの1回目(=遷宮計画:2期目)のプロジェクトは、どのように始まったのでしょう?
高野:
まず取り組んだのは、「何のために」「どこを」「どのくらいの期間で」整備するのかを言葉と図で整理することでした。3カ年の遷宮計画の2期目として、参道の整備やご高齢の方・車椅子の方でも参拝しやすい環境づくりがテーマになっていきました。
【遷宮計画について】
令和4年から鳥飼八幡宮式年遷宮奉賛会を立ち上げ、3ヵ年に亘る遷宮計画を進行。
実施月 | 実施内容 |
|---|---|
◆令和4年(遷宮計画1期目) | 本殿・拝殿の建て替え:鳥飼八幡宮だけでなく神社は、空間全体が信仰の対象となるため、神殿を建て替え、神聖な空間の芯を打つ計画を実施。 |
◆令和5年(遷宮計画2期目) | 内の外構を整備し、神苑の刷新:歩きにくくなった表参道を整備し、また緑や石を配して神苑といえる境内にすることで、空間信仰を体現するとともに、地域の方々の憩いの場、観光名所となるような場所を目指した。 |
◆令和6年(遷宮計画3期目) | 神楽殿の再建と弁財天宮の創建:「神楽殿の再建」、そして境内の一隅で合祀されるに留まっていた弁財天様をお祀りするお宮「弁財天宮の創建」を目指した。 |
山内:
今振り返ると最初の原稿は、少し“空中戦”だったなと思います。
「未来の神社はこうあるべきだ」「こんな理想を目指す」みたいな、理念やビジョンを前面に出してしまっていて、読み手からすると「結局、何をやるプロジェクトなのか」が見えにくかったんだと思います。
――実際、反応はいかがでしたか?
山内:
READYFORでの1回目の挑戦を開始して、実は最初の数日はほとんど反応がなかったんですよ。「アドバイス通りにやっているつもりなのに、何かがおかしいな」と。
高野:
そこで担当キュレーターの方とやり取りを重ねる中で、「ここが伝わっていないんじゃないか」といったフィードバックをどんどんいただきました。Excelで“やることリスト”がわーっと出てきて、「うわぁ、こんなにやることがあるのか」と圧倒されつつも、1つずつ進めていくうちに、少しずつ反応が変わっていきました。
―― そこから、具体的にどのように表現を変えていったのでしょう?
山内:
大きく変えたのは、「かっこいい理念」から「誰が見ても分かる具体的なゴール」への切り替えです。
たとえば、「未来の神社像をつくる」といった抽象的な表現ではなく、「ご高齢の方や車椅子の方でも安心して歩ける参道に整備します」と、日常生活に根ざした言葉に変えました。
高野:
他には、いろんな会合や地域の集まりに出て、「このプロジェクトどう思いますか?」と聞いて回ったんです。返ってきた言葉が、だいたいみんな同じで。
「なんかかっこいいこと書いてあるけど、何するか全然分からんね」と(笑)。
その生の声をきっかけに、表現を見直すことにしました。

READYFORでの1回目の挑戦で整備された参道。多くの参拝者から「歩きやすくなった」との声も
―― READYFORで挑戦されたプロジェクトでは目標金額を大きく超えるご支援を集められました。クラウドファンディングを成功に導いた要因として、“支援の呼びかけ方”で意識したことを教えてください。
山内:
一言でいうと、SNSだけに頼らず、地元の人と“直接顔を合わせて向き合うこと”を大切にしました。
もちろん、鳥飼八幡宮は以前からSNSやホームページでの情報発信に力を入れていましたし、「あれだけ投稿しているんだから、地元には十分届いているだろう」とどこかで思っていたんです。
でも、いろんな会合や地域の集まりに出て、実際に地元の方と話してみると、返ってくるのは「そんなことやってるなんて、知らなかった」という言葉ばかりでした。
高野:
そのとき、「僕らは“知ってもらえているつもり”になっていただけなんだ」と痛感しましたね。
―― 具体的には、どのようなアクションを取られたのですか?
高野:
一番反響が大きかったのは、過去に祈願やご寄付をいただいた方、納骨堂(お骨蔵)の契約者の方などへ、一通一通お手紙を送ったことです。
クラウドファンディングと聞くと、どうしても「ネットでの拡散」が真っ先に浮かぶと思うんですが、うちの場合は、ある意味いちばんアナログな手法がいちばん効果的でした。
―― その過程で、どんな気づきがありましたか?
山内:
「地元の人、特にご高齢の方に伝えるには、SNSでは届かない」という当たり前のことを、身をもって学びました。
神社は“IT企業”ではありません。地域の日常の延長線上にある存在です。だからこそ、顔を合わせて話すこと、手紙を届けることが何よりも大切だったんだと、改めて気づかされました。
―― プロジェクトを通じて、地域との関係性はどう変化しましたか?
山内:
いちばん嬉しかったのは、「クラウドファンディングをきっかけに、鳥飼八幡宮さんが前より近く感じられるようになった」という声です。
プロジェクトの途中からは、お参りに来てくれたり、支援してくださったり、「今、こんなことやってるんでしょう?」と声をかけてくださる方が増えました。
高野:
僕はリターン(返礼品)として、体験型の企画も担当していたので、支援者さんと直接お話しする機会がたくさんありました。
一緒に境内を掃除しながら「どうして今回、うちに支援してくださったんですか?」と聞けたり、ざっくばらんに信仰の話ができたり。“生の声”は、神社にとって本当に大事なんだ、と実感しましたね。

READYFORでの2回目のプロジェクトの返礼の一つである「年末の煤払い」を支援者の方と実施した時の様子
―― 鳥飼八幡宮さんは「3カ年の遷宮計画」を掲げてクラウドファンディングに取り組まれましたが、どのような計画だったのでしょうか?
山内:
最初の時点で、「これは1回で終わらない。少なくとも3回は必要だ」と考えていました。
「本殿・拝殿の建て替え」、「参道整備・社殿まわりの環境整備」「神楽殿の再建とお宮の創建」、そしてその先のステップ…と、やるべきことをいくつかのフェーズに分け、3カ年に亘る遷宮計画の2期目・3期目をREADYFORで実施した形です。
――継続してクラウドファンディングに取り組むことで、どんな変化がありましたか?
高野:
READYFORでの1回目と2回目の挑戦では、気持ちも動き方もだいぶ変わりました。
1回目は、どこか「手探り」で、「これで合っているんだろうか」と不安も大きかったのです。
2回目は“型”のようなものができてきていて、最初から狙いを定めて動けた感覚がありました。
山内:
組織としても、「クラウドファンディングは全員で取り組むもの」という共通認識が育ってきました。私は大枠の方針を決める役割ですが、実際の作業は職員全員で分担しています。チラシを折るところから、地元の会合に出て説明するところまで、本当に全員でやりました。

――READYFORの伴走については、どのように感じていらっしゃいますか?
山内:
「何が起こっても諦めない強さを持っている人たち」という印象ですね。
初動が思うように伸びなくて、僕らがヘコんでいるときでも、「大丈夫です。ここから一緒に考えましょう」と前を向かせてくれる。
一方で、宿題もしっかり出してくれます(笑)。
「これだけやることがあります。大変なら私も手伝いますが、まずここまでやってみましょう」と、優しさとリーダーシップのバランスが絶妙で、とても心強かったです。
高野:
クラファン期間中は、自分自身への“願掛け”として、甘いものを断っていました。
「100%達成したら饅頭を食べる」という目標を自分に課して(笑)。
第1目標を達成して、やっと甘いものを解禁したと思ったら、すぐに第2目標(ネクストゴール)が設定されて、「あ、また我慢しないといけないな」と…。
それくらい、チーム全体で「達成に向けて本気でやりきる」モードになっていたと思います。
――最後に、これからクラウドファンディングに挑戦しようとしている方へ、メッセージをお願いします。
山内:
「やろうかな」と考えているなら、やるべきだと思います。
やらなければ、何も変わりません。成功するかどうかだけで判断するのではなく、まず一歩を踏み出す勇気を持ってほしい。
たとえ結果が思うようにいかなかったとしても、鳥飼八幡宮の最初の挑戦のように、「自分たちが何を分かっていなかったのか」がくっきり浮かび上がります。それだけでも大きな財産です。
高野:
もう1つ伝えたいのは、「自分たちの言葉が、本当に相手に伝わっているかを確かめる仕組みを持ってほしい」ということです。
チラシを配ってみて反応があるか、地元の寄り合いで率直な感想を聞いてみるか、信頼できる“ご意見番”にページを読んでもらうか。
何でもいいので、「伝わっていないサインに気づけるリトマス試験紙」のようなものを用意しておくと、クラウドファンディング期間中に軌道修正しやすくなります。
クラウドファンディングが始まれば、カウントダウンが動き出します。
だからこそ、スタート前にできる準備と、「伝わっていないかもしれない」と気づいたときに方向転換できる柔軟さを、ぜひ大切にしてもらえたらと思います。
鳥飼八幡宮による「3カ年の遷宮計画」に向けたクラウドファンディングは、単なる資金調達にとどまらない、「100年先を見据えた地域との絆づくり」のプロセスそのものでした。
それは「神社が地域とどう向き合うのか」を問い直し、「知ってもらうこと」「近くに感じてもらうこと」を3年という時間をかけて積み重ねていくことで実現できました。参拝者が「神社をより近くに感じるようになった」という温かな“ご縁”こそが、最大の成果といえるでしょう。
「自分たちの言葉は、本当に相手に届いているか?」という問いに真摯に向き合い、変化を恐れず一歩を踏み出す姿勢は、地域との関係性に悩む多くの神社仏閣にとって、未来を切り拓くための「希望の灯」になるはずです。
クラウドファンディングについてもっと詳しく知りたい方、実施を検討されている方は、ぜひお気軽に下記よりお問い合わせください。
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