INTERVIEW
江戸川乱歩生誕地ミュージアム様|見えない構想をカタチに変えたクラウドファンディング。一人の乱歩ファンの熱意が応援の輪になるまで
乱歩と名張 辻孝信
2026/08/20

三重県名張市。「日本の探偵小説の祖」とも呼ばれる江戸川乱歩が生まれた借家跡には、旧桝田医院の建物がありました。空き家となり、売却される——その一報を聞いた一人の乱歩ファンが、「この場所を残したい」という思いに突き動かされます。
「乱歩と名張」を主宰する辻孝信さん。物件を個人で買い取って解体を止めたものの、ミュージアムとして公開するには、さらに改修費用が必要でした。完成形を見せられない構想に、応援は集まるのか。挑んだクラウドファンディングは、目標金額500万円に対し、12,935,000円、434名からの支援を集めて幕を閉じます。
一人の「なんとかしたい」という思いが、どうやって全国38都道府県からの応援へと広がっていったのか。準備段階の手探りから、支援者とのつながり、ミュージアムのこれからまで、辻さんに振り返っていただきました。

乱歩と名張(江戸川乱歩生誕地ミュージアム)
三重県名張市を拠点に、江戸川乱歩と名張のつながりを未来へ伝える活動を続ける会。主宰の辻孝信さんは、乱歩生誕の瞬間に曾祖母・辻せきさんが立ち会ったという縁を持つ。
クラウドファンディングプロジェクト
廃病院をミュージアムへ|生誕地、名張で江戸川乱歩の世界を再現したい
資金の使い道:ミュージアムとして公開するための改装費用(雨漏り箇所の修繕、玄関からサロンへの動線づくりのための解体工事など)
成果:目標金額5,000,000円に対し、434名の方から12,935,000円が集まった(第一目標達成後、ネクストゴール800万円・1,200万円も達成)

目次
── まずは、ミュージアムをつくることになった経緯と、クラウドファンディングに至るまでを教えていただけますか。
辻さん:江戸川乱歩の生誕地に建つ廃病院を買い取りまして、それを「江戸川乱歩生誕地ミュージアム」として整備するために、クラウドファンディングをさせていただきました。
もともとミュージアムづくりを計画していたわけではなく、物件が売りに出されると聞いたことが始まりでした。これはまず自分で動くしかないと。この建物を手に入れなければ、乱歩さんの生誕地を伝える場所がなくなり、乱歩と名張のつながりも切れてしまう。そう思い、建物を守るために動きました。
ただ、取得後には、ミュージアムとして公開するための改修費用が必要でした。「このあと、どうしようかな」と、しばらく呆然としていたんです。

── そこからREADYFORを見つけていただいたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
辻さん:クラウドファンディングという仕組みがあるのは知っていたんですが、どういうかたちでできるのかは全然わかっていなくて。しばらく探していたところ、キュレーターによる個別のサポートを受けられるプラン(=コンサルティングプラン)を見つけたんです。
それまでクラウドファンディングの進め方を自分なりに考えていたものの、なかなか前に進めずにいたので、「これなら一人で抱え込まずに、相談しながら進められる」と心強く思い、お願いしました。
── 今回、構想から公開まで約半年という短期間でプロジェクトを進められました。短期間でプロジェクトを進めようとされた背景には、何かタイムリミットがあったのでしょうか。
辻さん:タイムリミットは、実はこちらで設けたんです。もともと病院の敷地内にあった「江戸川乱歩生誕地」の碑が、今は裏手の公園に移されているんですが、2025年11月3日が建立70周年にあたる日でした。
この日に合わせて記念事業を行おうと、そこから逆算していったんです。クラウドファンディングをやろうと決めてから公開するまでは、半年ちょっとでした。もし間に合わなくても、式典だけはするつもりでいました。
行政の仕組みでは時間を要することもあるなか、今回のクラウドファンディングを含め、民間だからこそのスピード感で動かせた部分があります。

── 初めてのクラウドファンディングで、不安に感じていたことはありましたか。また、どなたかに相談されていたのでしょうか。
辻さん:一人、相談していた方はいました。その都度意見を聞きながらも、最終的には自分で判断して進めていました。
不安はありましたが、「All or Nothing(目標未達なら全額返金)」というかたちでしたので、もし目標に届かなければ、いったん時間を置いて、また考えればいいとも思っていました。
── その不安は、担当キュレーターにも共有されていたのでしょうか。
辻さん:そうですね。やっぱり金額が大きいですからね。500万円というのは、今思えば無謀とも言える金額で、本当に集まるのかなと。誰に聞いても「ええっ!」と言われるんですよ。「まずいのかな」と思ったんですけど、最後は、まあ、やるしかないかという気持ちで始めました。
── 周囲に相談しながら、実際の準備や広報は辻さんが中心となって進めていたそうですね。いちばん苦労されたことは何でしたか。
辻さん:いちばん苦労したのは、まだ影もかたちもないものを伝えることでした。「こうしたい」と言ったところで、なかなか届かない。「できたらいいね」で終わってしまう。0のものを1にしようとしていたので、そこに説得力を持たせるのが本当に難しかったですね。熱く語っても「それはあなたの考えですよね」というところで終わってしまう。
── その構想を信じてもらうために、広報ではどのようなことをされたのでしょうか。
辻さん:まず、応援コメントをお願いしに行きました。乱歩にゆかりのある方々へご相談したんですが、なかなかすぐには決まらなくて。ご自宅を訪ねるなどして、何度か思いをお伝えし、最終的にコメントをいただくことができました。書いていただけた時は本当に嬉しかったですね。ちょっと厚かましいくらいに動いていたな、という感じがします。

── SNSでの広がりも大きかったと伺いました。
辻さん:クラウドファンディングのために立ち上げた「乱歩と名張」のXアカウントでは、多くの方に拡散していただきました。作家の方々や、影響力のある方が反応してくださったことで、そこから一気に広がっていったんです。
「クラウドファンディングをやっています」という最初の投稿は、8万ビューほどまで伸びました。当初数十人だったフォロワーも、1,000人を超えています。
── 支援の広がりに勢いがついたきっかけは、何だったのでしょうか。
辻さん:いちばん大きかったのは、思いを受け止めてくださる方から、少しずつ支援が集まり始めたことです。そこに、影響力のある方からの応援や、いくつかの大きなご支援も加わって、だんだん勢いがついていきました。見ず知らずの方から大きなご支援をいただいたのは、やっぱり乱歩さんの力も大きかったのかなと思います。
── キュレーターがついてよかったと感じた場面はありましたか。
辻さん:全般にわたって、気持ちの拠り所というか。しっかり知識を持って教えていただけるのは安心でした。ポイントがわからないので、そこを押さえてくれるから、無駄な動きをせずに済んだなと。
── 担当キュレーターからも、クラウドファンディングの挑戦期間中に印象に残っていることを教えていただけますか。
担当キュレーター:公開する前、本当に怖かったですよね。公開前の最後のお打ち合わせまでミーティングくらいまで、第一目標を500万円にするか、辻さんがおっしゃっていた700万円で行くか、けっこう議論してスタートしたんです。始めた直後も伸び悩み、ご支援が入るまでが長かったので、二人でやきもきしていたのは印象深いです。

Xのアカウントはこちら:https://x.com/UA2HhbBofL8VIT6
── 実際に挑戦されてみて、反響はいかがでしたか。
辻さん:本当にびっくりしました。数えてみたら、全国38都道府県からご支援をいただいていたんです。乱歩ファンの方が全国各地にいらっしゃるんだなと感じました。オープン後に来てくださる方も幅広い世代にわたり、若い方の姿も多いんです。「乱歩さんという名前は、これからも生き続けていく」と確信を持てたことが、すごくよかったですね。
── クラウドファンディングを終えた今、いちばん「やってよかった」と感じることは何ですか。
辻さん:クラウドファンディングによって0を1にしていただいた、というのがいちばん大きいです。そのうえで、ご支援いただいた方が実際に来てくださる施設になりました。
リターンにはすべて「入場券」をつけて、皆さんに足を運んでいただけるようにしたんです。「できあがりをぜひ見てほしい」という思いがありましたから。支援者の方と直接お話しできるのが、本当にありがたいですね。
乱歩ファンの方に「なんだこれ」と言われたらどうしよう、というのが常に怖かったので、喜んでいただいて、皆さんが「また来ます」と言ってくださるのが、やっぱり良かったなと思うところです。

クラウドファンディングを通して無事にオープンが叶った「江戸川乱歩生誕地ミュージアム」内装
── これから、このミュージアムをどのような場所にしていきたいですか。
辻さん:江戸川乱歩生誕地ミュージアムは、まだ一つの「点」なんです。これを周りへ広げて、「面」にしていく必要があると思っています。生誕地から半径300メートル以内には12か所の登録有形文化財がありますが、半分以上が空き家で、手を入れなければ維持が難しくなっています。
このミュージアムを一つの「杭」にして、まちの古い建物や風景が失われていく流れを食い止めるきっかけにしたいんです。大きな資金が必要になる場合は、行政や国の支援も必要になるかもしれませんが、それと並行して、民間だからこそできることも進めていきたい。
先ほどお伝えしたように、行政の仕組みでは時間を要することもあるなか、今回のクラウドファンディングを含め、民間だからこそのスピード感で動かせた部分があります。乱歩生誕地を守れたことは、周りにある文化財も守っていける、一つの例になったと思っています。
── 最後に、これからクラウドファンディングを検討している方へメッセージをお願いします。
辻さん:クラウドファンディングは、お金も大事なんですけど、これほど多くの方が応援してくれていると実感できるものだと思っています。これがすごく励みになるし、前に進む力に変わっていく。支援してくださる皆さんを大事にしていくことが、これからますます必要になってくるのかなと。
今も生誕地ミュージアムには、続々と支援者の方が会いに来てくださっています。本当に、これがずっと続いていったらいいなと思っています。

ミュージアム内にて
まだかたちになっていないものを、人に信じてもらうのは簡単ではありません。それでも辻さんは、足を運び、思いを伝えながら、一人ひとりとの関係を築いていきました。
クラウドファンディングで集まったのは、改修に必要な資金だけではありません。全国から寄せられた応援は、いま、ミュージアムを訪れてくれる人とのつながりへと広がっています。
一人の「この場所を残したい」という思いから始まった挑戦は、いま、周りの文化財やまちの風景を守る「面」への歩みにつながろうとしています。
「これなら孤独にならずに済む」——辻さんの挑戦も、一人で抱えていた構想を誰かに相談するところから動き出しました。まだ実施を決めていない段階でも、まずは構想を誰かに話してみることから始めてみませんか。
クラウドファンディングについてもっと詳しく知りたい方、実施を検討されている方は、ぜひお気軽に下記よりお問い合わせください。
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