INTERVIEW
ピティナ様|クラウドファンディングで気づいた「つながり」の価値と、共感で広がる「循環」
一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
2026/05/11

イベントの開催資金、未来の才能の育成、そして事業の価値の再定義。こうした課題は、歴史ある文化・芸術事業を運営する多くの担い手が直面している壁です。国内最大規模のピアノコンクール「ピティナ・ピアノコンペティション」を主催する一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)さんもまた、同コンクールの最高峰である「特級」において、これからの時代に向けた新たな支援の形を模索していました。
今回のインタビューでは、クラウドファンディングを担当された黒木様、堀内様、二子様にお話を伺い、前年踏襲を脱却する中で見えたサポーターとの「つながり」「循環」を生み出すプロジェクト設計・広報活動などの裏側に迫ります。その準備と運用の過程には、これからクラウドファンディングの実施を検討中の方や、なにをどう進めれば良いのかわからない方にとって、役立つヒントが詰まっています。
一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
1966年に発足した、ピアノを中心とする音楽指導者の団体。ピアノ指導者をはじめ、大学の教員やプロの演奏家、調律師、ピアノ学習者など17,000名以上が所属する。全国600以上の事務局で音楽イベントを展開する他、ピアノ指導者の研鑽など、広く社会に貢献し、音楽文化の発展に寄与することを目指している。
クラウドファンディングプロジェクト(過去の主な実績)
成果:目標金額300万円に対し、最終的に510万円のご支援が集まった(支援者数:394人)
成果:目標金額180万円に対し、最終的に365万円のご支援が集まった(支援者数:247人)
ピティナ特級2025| 若きピアニストが全国・世界へ羽ばたくために
成果:目標金額200万円に対し、最終的に314万円のご支援が集まった(支援者数:183人)
目次
─ まずは、皆様の自己紹介と普段の役割についてお聞かせください。
黒木:ピティナ特級におけるアーティストの育成や、入賞後のプロモーション、コンサート制作を担当しております、黒木です。入賞者が世に出て行くための、音楽事務所に所属する前の段階のサポートを主に行っています。クラウドファンディングでは全体の設計やピアニストの派遣調整などを担いました。
堀内:私はその年の特級出場者がグランプリになるまでの過程の広報や、企業様との結びつきなど新しい展開の開拓を担当しております、堀内です。クラウドファンディングではSNSや動画周りなどの広報全般を担当いたしました。
二子:普段は「学校クラスコンサート」などこども向けコンサートの企画運営や広報をしております、二子です。アーティストが小学校の教室で演奏し、こどもたちの素直な反応を見ることで成長していく過程に関わっています。クラウドファンディングでは、挑戦期間中から終了後まで、普段の活動や支援者の方へ報告を行うための記事(活動報告)の執筆などを担いました。
─歴史あるコンクール「ピティナ・ピアノコンペティション」の最高位級である「特級」において、クラウドファンディングを取り入れた背景を教えてください。クラウドファンディングの導入は、以前から検討されていたのでしょうか。それとも何かきっかけがあったのでしょうか?
黒木:ピティナは1966年の発足以来、ピアノ教育の普及を通じて「人間力」を社会に還元する活動を行ってきました。「ピティナ・ピアノコンペティション」は、毎年約3万人もの参加者がしのぎを削るコンクールです。その最高峰「特級」でクラウドファンディングを取り入れたきっかけは、2020年のコロナ禍でした。
最初はクラウドファンディングという形ではなく「特級ファイナル開催支援基金」として寄付を集め、 感染防止対策としてソーシャルディスタンスによる人数制限を施し、なんとか有観客でコンクールを開催しました。その際、ライブ配信を行ったところ、延べ34万再生数の視聴があったのです。そこで、「画面越しに応援する」ということへの価値が、私たちの認識の中で大きく高まりました。翌2021年に、当時ピティナに在籍していたファンドレイザーの知識を生かして、クラウドファンディングの手法にトライしたのが始まりです。この年に、視聴者からの支援を賞金として分配する「オンライン聴衆賞」を設立しました。
─最初はコロナ禍の資金難がきっかけだったのですね。そこから毎年継続されている理由はどこにあるのでしょうか?
黒木:コロナ禍での資金難を乗り越えた後も継続してやっていく中で、特級には「見えない価値」があることが、クラウドファンディングを通じて言語化・可視化されてきたからです。これまでは会場のお客さんしか見えていませんでしたが、全国に何十万人もの見守ってくれる人がいることに気づきました。
特級のピアニストはただ審査されて育てられるだけではなく、全国に行って音楽を還元していく存在であること。そして支援者の皆様は単なるお客さんではなく、「一緒にコンクールをつくる仲間(サポーター)」であるということ。
コロナ禍をきっかけに見えたこうした「コンクールの見えない価値」は、もともと言語化することが難しいものでした。しかし、クラウドファンディングを通じて全国から熱い応援をいただき、実際にピアニストを派遣してこどもたちとの交流を生み出し続ける中で、「自分たちの事業が社会にどんな価値を提供しているのか」、運営する私たち自身の理解も年々深まっていきました。

2025年に実施したプロジェクト
─「ピアニストの人生を応援する」「循環」といったキーワードがプロジェクトページでも印象的です。実施前の準備やプロジェクトの設計において、工夫されていることはありますか?
堀内:プロジェクトの核として「循環」というビジョンを掲げています。クラウドファンディングは単なる「資金集め」ではなく、サポーターとともにコンクールを作り上げ、若きピアニストを社会へ送り出す仕組みへと成長しています。元々の2021年のクラウドファンディングは「オンライン聴衆賞の賞金を作りたい」というところから始まりました。しかし、それだと恩恵を受けられるのが上位の数名になってしまいます。
そこで、支援金によって全国のこどもたちが音楽に触れて育ち、それが回り回って自分の元に返ってくるというような「循環」をイメージしたプロジェクトへと進化させていきました。

循環のイメージ
クラウドファンディングを通してピアニストの人生を応援することは、
こどもたちがピアニストへ憧れ、未来のピアニストが生まれる「循環」
ピアニストがこどもたちへ音楽を提供することで生み出される社会の「循環」
ピアノで培った素養をもとに、ピアノ・音楽以外の分野での担い手を育む「循環」
ピアニストが応援によりきっかけ・学びを得ることで未来の指導者となり、未来のピアニストを育成する立場となる「循環」
を生むことにつながります。
─2025年のプロジェクトでは、リターンに「特級を地域で応援!リーフレット」の配布など、地域に特化したコースも新設されていましたね。
二子:はい。プロジェクトを設計する段階で、東京の本部だけで決めるのではなく、全国の支部の皆さんにも意見を聞く会を設けました。熊本や滋賀、札幌などさまざまな地域の方からヒアリングを行いました。
黒木:そこで得た「地域でこんな風に応援したい」というアイデアをリターンに反映させました。たとえば、15万円の「ピアニストを派遣するコース」を作ったところ、滋賀県の支部の方々が地域で少しずつお金を出して、15万円に達したところで合同でご支援いただいた(ミニクラファンを行っていただいた)という事例がありました。
READYFORのシステム上、支援としては1口のカウントになりますが、その裏には地域のたくさんの方のサポートがあったんです。全国の支部の皆さんとも「一緒にプロジェクトを作っている」と実感できて嬉しかったですね。
二子:また、プロジェクトのキービジュアルも「上へ上へ」というメッセージから、もう少し周りに波及していくような温かい雰囲気のものに変えていただきました。全国の地図を入れて、いろんなこどもたちとの交流があることを一目で表せるように工夫もしています。

─挑戦期間中の広報やコミュニケーションで、大変だったことや意識されていたことはありますか?
堀内:コンクール期間中は、審査の進捗を伝える公式の広報と、クラウドファンディング側の広報が混在します。コンクールはどうしても少しギスギスしてしまう雰囲気もあるのですが、広報を担当する二子さんがクラウドファンディングの方で「温かく応援する気持ち」を持って発信してくれたことで、その空気が緩和され、ファンが増える要因になったと思います。
二子:「コンクール」の性質上、鮮度が大切な部分もあり、情報をなるべく早く届けることを意識しつつも、審査中の演奏者やスタッフに負荷をかけないようタイミングには気を使いました。また、ピティナでは特級以外にもさまざまな級の全国大会が同時期に開催されています。そのため、「特級だけ注目してね」というトーンにならないよう、時期をずらすなどの配慮を行いました。
─なるほど、演奏者への配慮や広報のタイミングなど、さまざまなスケジュールを考慮して緻密に設計されているのですね。クラウドファンディングの「実施期間」もアップデートされていると伺いましたが、具体的にどのような変更をされたのでしょうか?
堀内:はい。以前は特級のコンクール終了と同時にクラウドファンディングも終了日を迎えていたため、最後の追い込みが力尽きてできないことがありました。クラウドファンディングはラストスパートが非常に重要なため、READYFORのキュレーターの方のアドバイスをいただき、クラウドファンディングの終了日をコンクールの「1週間後」に設定しました。
二子: 期間を延ばしたことで、コンクール当日の感動や余韻をしっかりとレポートでまとめ、運営側の私たちも余裕を持って発信できるようになりました。
さらに、「当日来て感動しました!」という熱い気持ちを持ったままの方々に、コンクールの余韻とともにご支援いただくことができ、最後の最後まで支援の輪を広げられたと感じています。
実際に、コンクール終了後に「推しのピアニストさんがグランプリを受賞したので、記念に支援します」「素晴らしい演奏をありがとうございました」「オンラインで応援ながら聴かせて頂きました」などのコメントとともにご支援くださる方もいました。

ラストスパートでは、特級ファイナルの結果や裏側のレポートを活動報告で発信
─クラウドファンディングを実施してみて、団体内外ではどのような反響や変化がありましたか?
黒木:ピアニスト自身の意識が大きく変わりました。以前と比べ、自分が支えられて全国の支部やこどもたちの前で演奏するという「責任感」がものすごく高まっています。派遣先にゲストで行くことに対し、行く前にものすごく緊張していたりして。若い時期にいろいろな土地を訪れ、人と出会う経験を通して、入賞者が人間として大きく成長しているのを感じます。
二子: 地域の受け入れ側の意識も変わりました。昔なら「すごい人が来たんだ」で終わっていたと思うのですが、今はクラウドファンディングや配信を通じて、コンクールの過酷なプロセスをずっと見守ってくれています。そのため、「私たちが応援してた人がグランプリを取った!」「私も支援しましたって直接言えて嬉しい!」と、出会う時に“初めまして”じゃない感じがすごいんです。まるで全国に保護者がたくさんいるような温かさを感じます。
堀内:組織としても非常に大きな変化がありました。コンペティションを50年近く続けていると、どうしても「前年踏襲」で物事が進んでいくことが増えてしまいます。しかし、毎年クラウドファンディングを実施することで、「今年はなにをしたいのか」「我々は何のためにこの事業をしているのか」を立ち返って振り返り、言語化するきっかけになっています。
自分たちの存在意義を考え直す機会が毎年あるというのは、組織にとってすごく良いことだと感じています。また、お金が動くことで「支援してくださる方々へしっかり報告しなければ」という責任感が生まれ、誰に向けて発信したいのかを考えながら活動できるようになりました。

─これからクラウドファンディングに挑戦しようと考えている文化・芸術・音楽関係の皆様へ、メッセージをお願いします。
黒木:クラウドファンディングは資金調達が完了して終わりではありません。その後に、自分たちの団体の理念を発信し、「見えない価値」を調達しているんだと思って、目的が変わらないように進めることが本当に大切です。
二子:これまで団体に関わりのなかった層の方々と繋がることができるのが大きな魅力です。そのため、「なぜ私たちがこの支援をしているのか」「一緒に応援したい」というスタンスをぶらさずに丁寧に発信し続けることが重要だと思います。私たちにとっても大きな学びでした。
堀内:想いを言語化し、広報を丁寧に行うことで発信力が上がります。「こういう人が支えてくれているんだ」という気持ちを持って活動することで、誰に向けて発信したいのかが明確になるはずです。お金が動くということは責任でもありますが、同時に事業の意義を再発見する素晴らしい機会になります。ぜひ活用してみてください。
【まとめ】クラウドファンディングを通して生まれた「つながり」と「循環」。
クラウドファンディングに踏み出す前、多くの団体の中には、 「歴史ある事業の形を変えてしまって良いのだろうか」「ただの資金集めに見えないだろうか」 そんな迷いが確かにあるはずです。
実際、ピティナ様もコロナ禍という非常事態の中で、何とか継続させようと踏み出した一歩でした。しかしいざ挑戦してみると、集まったのは想像を超える支援と、熱量の高いサポーターたちでした。しかもそれは、単なるコンクールの運営費への支援ではなく、未来のピアニストを育て、音楽の喜びを全国のこどもたちへ還元していくという「循環のビジョン」への深い共感でした。
長年続く事業はどうしても「前年踏襲」になりがちです。しかし、クラウドファンディングを通じて想いを言語化することで、自分たちの事業の意義を再発見し、組織全体の意識を変えるきっかけになります。
ピティナ様の挑戦は、事業の価値を言葉にし、共感の輪を広げるための選択肢として、大切な事業やイベントを未来へつなごうとする皆様にも、きっと力になるはずです。
クラウドファンディングについてもっと詳しく知りたい方、実施を検討されている企業・団体様は、ぜひお気軽に下記よりお問い合わせください。
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