INTERVIEW
茂山狂言会様|チケット購入だけでは見えなかった、支援者の熱量。伝統を次代へつなぐために踏み出した、未来への一歩。
一般社団法人 茂山狂言会
2026/01/30

建物の修繕、文化財の保存、そして技や行事の継承。
こうした課題は、有形無形を問わず、伝統文化を守り伝える多くの担い手が直面している壁です。
京都で狂言を伝え続ける「茂山狂言会」さんもまた、収益を生み出しにくい“後回しになってきた”問題に向き合っていました。
「アーカイブ化自体は収益を生まないため、ずっと後回しになっていた」
けれども“失われたら、もう二度と取り戻せないもの”がある。それが、クラウドファンディングに踏み出す決意を後押しした理由でした。
不成立の不安、団体内の理解、返礼品づくりの悩み……。
簡単ではないからこそ、その準備と運用の過程には、これから「守りたいもの」のために挑戦するすべての方に役立つヒントが詰まっています。
茂山狂言会
京都で約400年、大蔵流狂言を受け継ぐ茂山狂言会。現在は十四代目当主のもと約20人の一門で、古典芸能・狂言を未来へつなぐ活動を続けている。
クラウドファンディングプロジェクト
1回目の挑戦:狂言の至宝を後世へ|茂山千五郎家の最重要資料をデジタルアーカイブに
資金使途:1998年〜2009年に放映された舞台映像と、茂山千五郎家が伝承する江戸時代に書かれた伝書のデジタルアーカイブを目指す
成果:公開後、2日で目標300万円を達成/10日目に第二目標500万円も達成
最終的に約1,700〜1,800万円規模(目標の5倍以上)の支援が集まった
2回目の挑戦:#狂言を未来へ|伝承の危機にある演目を公開収録し、後世へ残したい
資金使途:過去数十年にわたり上演されていない古典狂言を、茂山狂言会が記録・保存するために活用
成果:目標金額 200万円に対し、最終的に389万円のご支援が集まった
目次
―― まずは、おふたりの自己紹介をお願いします。
茂山 茂(以下、茂):狂言の役者として普段は舞台に立っておりますが、今回のクラウドファンディングでは、1回目・2回目ともに主に責任者として取り組みました、茂山 茂(しげる)です。
茂山 逸平(以下、逸平):同じく、役者の茂山 逸平(いっぺい)です。1回目・2回目ともにクラウドファンディングの担当メンバーとして携わりました。
――最初の挑戦(2024年5月)は「映像資料のデジタルアーカイブ化」を目的にしたプロジェクトでしたよね。団体内では以前から課題として挙がっていたのでしょうか?
茂:はい。一言で「資料」といってもいろいろありますが、特に劣化が早く、アーカイブ化としての優先度が高かったのが『映像』でした。1998年から2010年頃まで、CSの番組で舞台を中心に収録していただいていたんです。その映像テープが、制作会社さんに保管されていました。
ただ、当時の記録は磁気テープなので、劣化が進んでいきます。
「このままで大丈夫なのか?」という話は以前から出ていたのですが、特殊なテープのためデジタル化には費用がかかることもあり、何年も先送りになっていました。
――やりたいことは明確だけれど、資金がネックになる。
クラウドファンディングで、実行者の方からよく耳にする構造ですね。
茂:本当にそうなんです。アーカイブ化自体が収益を生むものではないので、最初は自分たちで費用を出すしかないと思っていました。
でも、「他に道はないか」と考えたときに、「誰かに支えてもらう」という方法――クラウドファンディングという選択肢があったな、と思い出したんです。
年に何度か一門で集まる機会があるので、その場で「クラウドファンディングに挑戦してみるのはどうか」と、僕から提案しました。
―― クラウドファンディングは、もともとご存じだったんですね。
茂:はい。京都の「シアターE9 KYOTO」さんがクラウドファンディングをされていて、僕も支援したことがありました。自分の団体とは直接は関係ないプロジェクトでしたが、「こういう形で応援を集める方法があるんだ」と知ったのは大きかったです。
――団体内では、不安や反対意見も出たのでは?
茂:はい、「もし成立しなかったらどうする?」という声があがりました。
「不成立だと格好悪いのでは」とか、「それより全員でお金を出し合ったら?」といった意見もありました。
――その不安をどうやって乗り越えたのでしょうか?
茂: 僕はもう、「大丈夫」と言うしかありませんでした(笑)。
最初の目標金額は、あまり高すぎない設定にしていたし、クラウドファンディングは借金を抱える仕組みではない。 仮にうまくいかなくても、リスクは大きくない。だから一度、挑戦させてほしいと逸平と一緒に説明しました。

1回目の挑戦:狂言の至宝を後世へ|茂山千五郎家の最重要資料をデジタルアーカイブにの達成画面
――プロジェクトを公開してみて、率直な感想をお聞かせください。
茂:想像以上の反響に驚きましたね。開始からわずか1日半ほどで、目標金額(300万円)を達成することができたのですが、正直そこまで早くご支援が集まるとは思っておらず、ネクストゴール(※)の設定などの準備が追いつかず、少々対応が後手に回ってしまいました。
(※)ネクストゴール...最初の目標を達成した後に、追加で設定する目標金額のこと
―― そうだったのですね。どのようにご支援が広がったのでしょうか。
茂:特に印象に残っているのが、ファンクラブの方々の発信力でした。「推し活」の延長のような形で、「いま、こんな企画をやってるよ」とSNSで積極的に広めてくださったんです。リプライやシェアも本当にたくさんあって、支援の輪が一気に広がっていくのを感じました。
――一方で、準備や発信の面で難しかったことはありましたか?
茂:応援メッセージ(※)の掲載が、うまく進まなかったですね。数がなかなか揃わなかったり、掲載のタイミングが遅くなってしまったり…。
特に2回目のクラウドファンディングでは、「何を目的に資金調達をするのか」というプロジェクトのテーマになる候補が2つあって、どちらにするか悩んでいたんです。決まるのが遅れたことで、スタートも準備も全体的に後ろ倒しになってしまいました。
やっぱり、事前にしっかり準備できるかどうかが成功の鍵だと、今でも感じています。
(※)応援メッセージ...団体外の方からプロジェクトに関する応援のメッセージをもらって紹介すること
逸平:返礼品(リターン)の設計では、魅力的にしすぎると、プロジェクトの方向性が変わってしまうし、かといって簡素すぎるのも支援のモチベーションに影響します。何がふさわしいのか、本当に悩みました。
――最終的には、リターンの内容はどのように決めたのでしょうか?
逸平:返礼品(リターン)はあくまでも支援に対してのささやかな御礼であること。モノでお返しする場合は、支援額の10〜20%程度に収まる金額感が目安になると聞いて、その範囲で調整しました。
それともうひとつ、担当キュレーター(※)の方に「体験型リターン」の提案もいただいて。たとえば、私達は夏の期間に装束のメンテナンスをするのですが、その「のりつけ(糊付け)」の見学など、普段は見られない裏側を体験できるようなプランを盛り込みました。こうした“プライスレス”なものがリターンになるのは意外でした。
(※)キュレーター...プロジェクトの準備から公開・達成まで伴走させていただく担当者
――団体内での体制はどのように整えられたのでしょうか?
茂:主に僕と逸平、若手の虎真が中心となって動きました。
リターンに関して手ぬぐいなどの物販系は逸平が担当してくれて、応援コメントの収集や発信も役割を分担して進めました。また、次の世代を育てる意味も込めて、若いメンバーにも準備やプロジェクトの様子をそばで見てもらうようにしていました。

茂山千五郎家に代々伝わる、狂言の古書|九世 正乕本(約1600頁・虎寛本写し)
――クラウドファンディングをやってみて、「やってよかった」と実感した瞬間はいつでしたか?
茂:1回目・2回目を通じて強く感じたのは、「こんなにも多くの方が応援してくださるんだ」ということでした。
普段の公演では、チケットを買っていただく=舞台そのものを“商品”として受け取っていただくという感覚があります。でも、1回目のプロジェクトはそうした“売り物”ではない“支援を募る”取り組みでした。それにも関わらず、信じられないほどの支援が集まりました。
舞台を観る以外の形でも、応援してくださる方がこんなにもいるんだと気づけたことが、何より嬉しい驚きでした。
――応援の存在が、“目に見える形”で伝わってきたんですね。
茂:はい。特に印象的だったのは、新聞に掲載されたときのことです。
昔から応援してくださっていた方が、それをきっかけに思い出して支援してくださったり。少し距離ができていた方にも、今の活動を届けることができました。
また、これまで狂言を知らなかった方からも、「こういう伝統芸能があるんですね」と声をかけていただくなど、新しい出会いもありました。
――体験型のリターンには、どんな反応がありましたか?
逸平:装束の手入れなど、私たちにとっては“当たり前”の日常の作業も、お客様にとっては新鮮だったようです。 「こんなことまで自分たちでされているんですね」と驚かれました。裏側の仕事を知っていただき、狂言をより身近に感じていただく、とても良い機会になったと思います。

クラウドファンディング終了後、実際に支援者の方にのりつけ(糊付け)を体験いただいた際の様子(活動報告から)
――これからクラウドファンディングに挑戦しようか迷っている方に、メッセージをお願いします。
茂:うちは年齢層の高いお客様が多いので、「インターネットからじゃないとダメなんでしょ?」と聞かれることがよくあります。
でも「代理支援」という方法で電話受付でクラウドファンディングのご支援を募ることもできました。また、ご家族や知人に手伝ってもらう形でも、十分に支援していただけます。こうした選択肢があることも、これから挑戦する方に知ってもらい安心していただきたいなと感じています。
それから、「この内容で支援してもらえるのだろうか」と考えすぎなくても大丈夫です。 もしも、それが収益を生みにくい活動だったとしても「文化を守るために、大切なものなんだ」ということを素直に伝えてお願いしてみると、その意義に共感して、応えてくださる方が、必ずいます。
こんなに支援してくださる方々がいる、世の中って、本当にあたたかい。
クラウドファンディングを通して、こんなにあたたかい繋がりが生まれるのだな、ということを実際に体験することができました。
ぜひ、勇気を出してクラウドファンディングの挑戦への一歩を踏み出してみてください。

2回目の挑戦:#狂言を未来へ|伝承の危機にある演目を公開収録し、後世へ残したいの達成画面
クラウドファンディングに踏み出す前、茂山狂言会さんの中には、
「もし不成立だったらどうしよう」「人にお願いするのは気が引ける」
そんな迷いが確かにありました。
けれども、いざ挑戦してみると、集まったのは想像を超える数の支援。
しかもそれは、公演チケットという“対価がある商品”への支援ではなく、資料の保存や映像のアーカイブといった、直接の見返りがない取り組みに対してのご支援でした。
それでも「応援したい」と声を上げてくれる人が、これだけいる――その事実は、数字としても、実感としても返ってきました。
最後に、茂山さんはこう語ってくれました。
「自分たちが思っている以上に、応援してくださる方はたくさんいる。 世の中は本当にあたたかい。『大切なものを守るために必要だ』という想いを素直に伝えれば、きっと応えてくれる人がいます」
守りたいものがあるなら、その想いを言葉にして、外にひらいてみること。
茂山狂言会さんの二度の挑戦は、“必要なことを、必要だと伝える”ための選択肢として、伝統文化や大切な資産を未来へつなごうとする皆様にも、きっと力になるはずです。
茂山狂言会さんは、2026年3月31日まで第三弾のプロジェクト「#狂言を未来へ2026 伝承の危機にある演目を後世へ残したい」に挑戦中です。ぜひこちらもご覧くだだい。
クラウドファンディングについてもっと詳しく知りたい方、実施を検討されている方は、ぜひお気軽に下記よりお問い合わせください。
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